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Woker´s Live!!:現役・元風俗嬢がえがく日常、仕事、からだ

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白癬菌とわたし Photo
「皮膚科 女医 ××区」――検索。
レーザー脱毛、シミ取り、サーマクール……そんな言葉がたくさん出てきた。
いや、違うんだ。あたしが探してるのはそっちの皮膚科じゃない。
美肌に興味がないなんて言わないけど、とりあえず今はもっと差し迫った問題があるのだ。

ほんの少し、皮がはがれてるだけ。ただの乾燥かも、と思った。人に見せても気のせいじゃない?と言われるだろう。でもあることが、ひっかかっていた。
「とにかくウチのヨメは俺を全く大事にしねえんだよ。脱衣所のマットさえ別だぜ、水虫が娘に移るからってよ」
と言って愚痴るお客さんに、それってものすごく当たり前じゃ……とはもちろん言えず、きっと念のためですよぉ、とニコニコしていたあの日のこと。

もちろん、その人ひとりを責めるつもりじゃない。水虫を持ってる人なんてお客さんの中には他にも大勢いるだろうし、菌を取り除けず住み着かせてしまったのはあたしのせいだ。
もしかして、と思ってすぐに病院を探したのはその衝撃的なセリフを覚えていたおかげなので、むしろ感謝した方がいいのかも、とさえ思った。もう会うこともないひとだけれど。


「ええ、ほんとうに軽いものだけど、白癬菌、つまり水虫ですね」
先生は顕微鏡をのぞいてそう言った。きれいにしていてもたまたま抵抗力が落ちていて移っちゃうことはあるの、心配しないで、あっという間に治りますよ、と。ショックを受けることなんてないわよ、というニュアンスが伝わってきて、悪い方の結果だというのに少し楽になった。

「今は女性もかかるものってだいぶ言われるようになったけど、まだまだイメージがね」
「はい……おじさんの病気、みたいな感じがどうしても」
「そうですよね。でも菌にとっては、自分の棲む場所が男か女かどんな人かなんて、考えることもないのだけれど、ね」

その言葉にどうしても、”キミはマジメそうだしおとなしそうだからビョーキとかないでしょ、とコンドームなしのセックスを迫ってくるお客さんたちの群れ”を思い浮かべそうになってしまう。
だめだめ、今はそんなこと考えてる場合じゃない。余計なことを思い出さないようにしなくては。

「ご家族に水虫の方は?」
「いえ、ひとり暮らしなので……移るとしたら、きいたわけじゃないんですけど、たぶん彼氏からで。あの、一緒に住んでいなくて時々、本当に時々会う感じでも、それがその……彼の家じゃなくて、ホテルとかでも、うつりますか?」
お客さんからもうつりますよね?という質問の替わりの質問だった。

「水虫の人が歩いて、床とかマットに菌が付く。その上を別の人が踏めば、白癬菌、これが水虫菌の本名なんだけども、皮膚にくっつくことになります。スポーツクラブや岩盤浴で移るケースもあるようですよ」
それから、と先生は付け足した。
「恋人どうしだと、もっとダイレクトに裸の足が触れることも、あるから。菌にとっては移りやすい相手といえますね」

そうですね……とうなずいて相槌を打ちながら、シャワーを浴びたあとに触れちゃうことも全然あるなあ、でも全員の足指のすきまや爪の間まで一本ずつ洗うのは現実的じゃないもんなあ、とかそんなことを考えていた。

「もらわないようにするには、どうしたら」
「白癬菌が触れてから皮膚に入って感染するまでには、少し時間がかかるの。その間に洗い流して乾燥させられれば、そう乾かすっていうのが大事なんだけど、そうすればたとえ菌に触れてしまっても移らなくてすみます。でももちろん、もし彼氏さんだったら、治してもらいたいよねぇ」
もらいたいよねぇ、の言い方が可愛くて、もしこの人に本当のことを言ったらどうなるかなあ、と思った。怒ったり呆れたりはしないだろうな、と思った。だからって、言いはしないんだけど。

「今日お出しする塗り薬で、菌はすぐにいなくなると思います。確認して、それで終わりにできちゃうと思いますよ。ただ、治った後もお薬だけはしばらく塗ってもらうんだけどね。それにしてもよくいらっしゃいましたね、かゆみもほぼないのに」
不審がるような口調では全くなく、むしろ感心に近いのに、ちょっとドキッとした。
「あの、足のネイルを塗ってる時に、気になって。笑われてもいいやって、気にするよりいいやって思って……わたしすっごく心配性なんです」
まるで何かを言い訳するみたいに、少し早口になってあたしは言った。
「とってもいいことですよ。これからサンダルの季節になるしね!」
そう言ってにっこりと笑うと、先生は薬の使い方をひとつずつ丁寧に説明して、お大事になさってください、と送り出してくれた。

お大事に、おだいじに。自分でやらなきゃだれも大事にしてくれない、あたしのだいじな足。大きさのわりに少し指が長いあたしの足、ペディキュアなしでは客の誰も目に留めない、でもほんとはけっこうきれいなあたしの足。少しだけ泣きたいような、でも安心した気持ちで、お会計をして病院を出た。


あたしの水虫はほんとうにあっという間に完治して、白癬菌との付き合いは季節が移る前に終わった。
今年はコルクヒールの可愛いサンダル欲しいな、ネイルサロンでフットケアしてジェルつけて、そんで親指にはストーンきらきらさせるんだ、と思いながら、からっぽになった塗り薬の青い容器を捨てた。

 

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職種
売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。