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Woker´s Live!!:現役・元風俗嬢がえがく日常、仕事、からだ

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奇妙な生き物 Photo

まりあさん、カメ大丈夫ですよねえ? と聞かれたときはすでに車の中だった。
初めての客の元へと向かう車の中、もうあと数分で到着するというところで、電話越しにスタッフが私に尋ねてきた。カメ大丈夫ですよねえ、と。
カメってなんだ。大丈夫ってなにがだ。
何もかもがさっぱり分からないが、だいじょうぶですと答えることをすっかり期待されてしまっている、それはよく分かった。

カメ、ですか? あのう、動物の、亀ですか。
明るい声を保ったままでそう確かめると、やっと説明された。
「さっきちょっと説明省かせてもらっちゃったんですけどォ、今から行ってもらうフリーのお客さん、サータリさんってんですけど、あのー、カメ? がいるらしくてですね、お部屋に。まあペットですよねえ、んでそのー、さっきひとり別の女の子が行ったんすけどォ、そのカメとか? がですね、どーーしても気持ち悪いとか言って、帰って来ちゃってですねー。だもんで、ちょっとそのへんよろしくお願いしたいっていうかー、正直ちょっと待たせちゃってるっていうかー、まあほら単なるカメなんで、噛むようなアレでもないですから。幸いお客さんは無理もないからって言ってて、怒ったりとかはないっぽいんで、そこは大丈夫ですんでね、ハイ」

状況が理解できた安堵と、よくもまあ大事なことを「省かせてもらっ」てくれたものだ、という不快とを同時に味わいながら私は言った。
——わかりました、大丈夫です。ただのカメですもんね。
ちょろいもんだ、と思われたかもな、そういうことは先に言ってくださいよぉ〜と冗談めかしてチクリとしておくべきだったかな、と一瞬思ったが、別にいい。いつかこの店を辞めるまでは私はおとなしい生き物でいるつもりだし、店のホームページにも「癒し系で従順なまりあちゃん」と書かれているくらいだ。


でもその部屋にいたのは、「ただのカメ」なんかじゃなかった。

客はひどくやせっぽちで無愛想な男の人で、挨拶する私に向かってぼそりと「なんか、聞いてる?」とだけ言った。
「あの、ペットがいるからって……」とサンダルを揃えながら答えると、怪訝な顔をして一瞬こちらを見たようだったが、とくにそれ以上は何も言われずに部屋へと通された。暗くて無機質な部屋だった。

そして私は、それを見た。

とても大きな水槽に横たわる、絶対に「ただのカメ」ではない、全くカメですらない、丸々と太った巨大な、巨大としかいいようのないトカゲに変なたてがみが生えたような生き物。1メートル、いや、絶対にもっとある。

客は上ずったような声で「どうかな」と言った。どうかなと言われても私も困る。すごいですね、くらいしか言葉が出てこないし、とにかくまだ驚いている最中だった。
「イグアナ。危険なものじゃあないんだ、なにしろ、死んでるから」と彼は私ではなく生き物(生きていないそうだが)を見ながら言った。
確かに少しも動かない。これはイグアナの剥製で、水槽だと思ったものはガラスケースなのだった。かつては生きていた、ということがむしろ怖い感じもしたけれど、変わった趣味のインテリアだと思えばどうってことなさそうだ。
イグアナってこんなに大きくなるんですね。圧倒されながらそうつぶやくと、もっと大きくもなる、と、やはりこちらは見ずに言われた。

「どうかな」
同じことを二度言われて、やっと私は理解した。彼はこのグロテスクな生き物についてどう思うかと聞きたいのではなく、ここで仕事ができそうか、それともさっき来た女の子のように辞退するかを尋ねているのだ。
「大丈夫です。……佐渡さんがわたしでいいんなら」
表情のない横顔に向かって私は言った。


彼はごく短い間黙った。私の容姿やなんかを検討したのかもしれないし、チェンジをする権利があるということを今の今まで考えてもみなかったのかもしれない。それから、渋々とも思えるような微妙な表情でそっと頷いたので、わたしたちは服を脱いでシャワーを浴びた。待たせてしまったみたいだし、本当に渋々なのかもしれない。


バスルームの照明の下にいる佐渡さんは、なんだか急に弱そうに見えた。さっきまでが無愛想なら、今の彼は『無抵抗』だった。やたらと背が高く、というよりも細長く、身体のどこにも荒っぽい節がなく、表情も変化がなく。このままお湯をかけ続けたら、しだいに弱って最後にキュウと鳴きうずくまってしまうんじゃないかと不安になるような、そんな心許なさだった。知らない人に洗われて、なす術もなくじっと動かずにいる無抵抗な生き物。

「さっきのイグアナは、男の子ですか、女の子ですか」
いたたまれなくなり、私は言った。どうしても、イグアナのことになってしまった。佐渡さん自身のことをなにか質問してもよかったのに、なぜかそれではダメなような気がした。
佐渡さんは弱々しいまま、オスだよ、と答えた。
「あの、剥製を、買ったんですか、それとも」
どういう言葉を選べばいいのか分からずに言いよどんでいると、やっぱり弱々しい声で、
「ああ。剥製に、してもらった」
と言われた。それから少しして、つまり、かつては僕が飼育していました、と追加されて、おくやみ申し上げますと言うのも変だなと思い、そうなんですねと答えた。するとどうしたことか、私の声もいつの間にか弱々しいのだった。二匹の裸の生き物が、しょんぼりと寄り添ってお湯を浴びている。

浴室はしっかり掃除されていて、ふだん私が見ているお客たちの家に比べたら格段にきれいだ。あの子がここで水浴びしてたんだろうか、とつい想像する。
イグアナに水をかけたら嫌がりますか、身体を洗ってあげたりするんですか、と本当は聞いてみたかった。もう少し私たちが和気靄々と語らっていたなら、きっと聞いたのに。でも、もしかしたら聞くのかもしれない、この部屋を出るまでに、いつか。



タオルを巻いて部屋に戻ると、やはりイグアナの存在感は相当だった。一応は見慣れたつもりになっていたけれど、服を身に着けていない状態で向き合ってみるとやたらと威圧感があるのだ。
「見られてるみたい」とつぶやくと、佐渡さんは少し困ったような顔をして「見えてないよ、眼はガラスだから」と言った。
そこは『死んでいるから』じゃないのか、とおどろいていると、彼は続けた。

「布か何かで覆って隠そうかと思ったんだ。慣れてない人にとってはやっぱり恐怖の対象なんだなと、さっきようやく思って。分からなくなるんだよ、そういう……一般的な感覚が、ずっと当たり前にここにあると。ただ、それはいかにも死体扱いみたいになるし、どっちにしろそんな大きな布はなかった」
質問したことへの答えじゃないことを、こんなに長く喋っている。

だいじょうぶですよ、と私は言った。怖いんじゃなくてちょっと照れちゃうの、と。
佐渡さんは「寛容だね」と言い、初めて私の目を少しだけ見た。だからわたしも、初めて彼の顔を正面からきちんと見る機会を得た。もう弱々しくはなくて、小さくてまるい可愛い瞳をしていることを知った。なのになぜだかひどく冷酷な表情のように感じてしまう。
やっぱり、爬虫類っぽい。

私も少しは長く喋ることにした。
「あのう、わたしね、カメだって聞いてきたんですよ。カメがいるらしいけど気にするなって、お店の人に言われたの。カメ噛まないから大丈夫だから、行ってこいって。そしたらちっともカメじゃなかったから、最初びっくりしちゃいました。なんか、そうやってときどき話が変なふうになっちゃうことあるんですよね、ふふ」


「お店の人も大概だけど」
少し考えてから、彼が言った。
「たぶん僕のせいでもある」
聞くと、さっきの女の子は確かに怯えながら、なんですかこれカメレオンですか、とは言ったのだそうだ。佐渡さんはそれには特に答えず、ただ驚かせたことを詫びて帰したらしい。ああ、それがとうとうカメになっちゃったのかもですね。あきれたような苦笑いで、私はそう言った。
『僕のせい』という言葉が、なんだか意外だった。

「きちんと説明すればよかったかな。怖がってる人にそれ以上いちいち言うのもと思って」
悪いことをした、と、だけど相変わらず少しも悪いなんて思ってないような顔で言う。
ううん、大丈夫ですよう、きっとその子も今ごろはぜんぜん平気だし、わたしはもう、あの子のこと可愛いと思えてきましたから、大丈夫。私は自信ありげにそう伝えたが、佐渡さんはしばらく黙っていた。
それからイグアナに向かって「おまえもごめんな、カメ呼ばわりをされたそうだ」と言い、2人ともちょっと笑った。

ガラスケースの前で、私たちはしばらくの間なにも言わずに並んで座っていた。植物のような背中のトゲ。びっしりと詰まったうろこの模様。長いしっぽ。微笑んでいるように見える口と、そこから垂れ下がった頬なのか、アゴなのかわからない何か。
イグアナのことをじっと見ていると、自分がなんのおもしろみもない生き物に思えてくる。柔らかすぎるし、弱すぎる。なんだかとにかくつまらない。

「……変なことを訊くけど」
ふいに佐渡さんが言った。いつのまにか、ずいぶん彼にもたれかかっていた。
「まりあさん、誰かに働かされているの」
それを聞いた私は驚いて、えっやだ、全然そんなんじゃないし、そんな、マンガとか映画みたいなのじゃないですよ、大丈夫、と慌てて言った。

「変なことを言った。申し訳ない」
「ううん。気にしないで、だいじょうぶ」
「心配になった。……ずっと『大丈夫』ばかり言うから、それしか、言えない立場なのかって少し思っただけなんだ」

「……大丈夫は、確かに言ってるかもしれないけど、でも、そんなんじゃないですよ。やりたくて、やってるの。だから」
「ごめん」
気づけばまた、ふたりとも弱々しく消えそうになっていた。
「だから、抱いてください」
私はいちばん弱い声で、ようやく言った。


言葉で返事はなく、ただそっと抱き上げられてベッドに運ばれた。
彼は、そして私を見た。頭のほうから少しずつ、額も睫毛もくちびるも、鎖骨もみぞおちも内股もくるぶしも、注意深く見られているのが分かった。乳房と性器だけを特別な見かたで見ないことが、私にはひどく特別なことのようで、嬉しかった。その視線のあとを指がなぞってついていく。肩先を撫で、バスタオルの縁をていねいに持ち、ゆっくりとめくる。関節だけが大きな、木の枝のような指。

それはいじるのでも擦るのでもなく、何でできているのか調べているような動き方で、私のおっぱいってそんな形をしてるんですねとおもしろく思えるほど繊細だった。でも追いかけているうちに、少しずつ性的な感触が混ざってくる。静かだけれど欲情されていることが激しい安堵感になって広がり私を包む。口から息を吸って、止めて、こぼすように吐いて。佐渡さんはとても真剣だったので、私も真剣に感じ取ろうとしていた。恥ずかしがる演技とか、そういうもののことは忘れていたし、思い出したあとも使いたくならなかった。

いつの間にかふたりとも汗ばんでいたからか、まぶたの裏にじっとりと暑いジャングルの景色が浮かんでくる。葉っぱが擦れ合って立てる音、何者かが沼に上げる水しぶき。
ああ、でも、イグアナがいるのはジャングルではないかもしれない、とすぐに思い直した。もっと荒涼とした、茶色い岩場のような場所だろうか?それとも乾いた草原?何を食べるんだろう、何が天敵なんだろう、どうやって眠るんだろう、少しも想像がつかない。
それから、どうやって交尾をするんだろう。もし二匹が重なり合うのなら、あの背中のトゲトゲが刺さって痛くはないんだろうか。
私は彼について、何も、何も知らない。

うっすらと目を開けてイグアナの方を窺う。やっぱりケースの内側から、見られているような気がする。
どこから来たの、と問いかける。ここはずいぶん遠いのでしょう。あなたはどこで生まれたの、そしてどこでどうして死んでしまったの。
こんなところでこんなものを見せられるなんてね。ごめんね。

生まれた場所から遠く離れた街できれいなままの姿を留める爬虫類と、その隣で裸でしがみつき合う人間。何もわかってないくせに、何もわかれやしないくせに、身体のあちこちから液体を出しながら、なにかコミュニケーションできると信じてあがく奇妙な生き物。少し激しくなる彼の呼吸と、時折混ざる甘い声と、それだけのことが嬉しくてしょうがない私と、ああ、あなたがどんな風に射精するのか、私が見てもいいだなんてすごくはないですか。
空が明るくなるころにはもう遠く離れて、いつかの未来に別々の場所で死ぬ。お互いを思い出すこともなく、運命にかかわることも特になく。それなのに私はいま、ここにしか居場所はない。この人の興味と快感が、他の何よりも欲しくてたまらない。なんてばかばかしい生き物。

彼が私の名前を呼んだ。源氏名はなににするかと聞かれて「まりな」と答えたら「まりあ」と書かれ、そのまま何も言えずなりゆきでついた聖母の名。そういえばあの時から私は従順だった。従順も寛容も無関心も、私にとっては大して違いのないものなのではないか、とふと思いついた。いつからそうなっていたのか分からない。でも今は考えたくない、考えたってしょうがない。
返事のかわりにぎゅっと首筋に取りすがる。発情する私たちが、きっとガラスの眼に映っている。

 

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職種
売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。