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Woker´s Live!!:現役・元風俗嬢がえがく日常、仕事、からだ

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Sex Workerが観るSex Work映画〜その17 Netflixで観られる性労働ドキュメンタリー〜「ホットガールズ・ウォンテッド」「AV俳優たちの第二の人生」「英国の売春宿」「売春:闇の巨大産業」 Photo

20年ぐらい前からの知り合いの嬢友(彼女は現役だ。若い時期を過ぎても現役で居られることってすごいことだ。引退できる方がすごいみたいな歪んだ価値観はどうかしてるよ!)から、Netflixを見られるなら「After Porn End(AV俳優たちの第二の人生)」と「Hot girls wanted(ホットガールズ・ウォンテッド)」を観るといいよ、日本語字幕付いてるよ、と連絡が来た。

家族が契約したから、おこぼれ的にNetflixは見られる。
契約した時は観たいものがたくさんってワクワクしたし「オレンジイズニューブラック」に観はまったりもしていたが、最近パソコン前に座るのが嫌でご無沙汰してた。
Netflixが見られるテレビに買い換えてから「アンという名の少女」を観よう〜ぐらいに思っていた。

しかし尊敬する嬢友のお薦めならすぐ観なければ。

Netflixの便利機能のおかげで自分のアカウントでログインすると、過去の視聴作品から傾向を推測されていて、セックスワーク系のドキュメンタリーがトップページのお薦めにずらっと並び、嬢友のお薦め映画は検索しなくても見つかった。

●「Hot girls wanted(ホットガールズ・ウォンテッド)」
2015年サンダンス映画祭で話題になったラシダ・ジョーンズ製作のドキュメンタリー。暴力的な作品の多いアマチュアポルノ業界で働く女性たちに鋭く迫る。

ライリーという23歳のエージェントに所属している素人モノのポルノに出演してる女の子たちがポルノに出演し始めてから辞めるまでを追ったドキュメンタリーだ。
ライリーは時々男優もやっているそうで、めんどくさくなさそうな男だ。
女の子たちにに威圧感を与えないし、誰とも恋愛関係になってなさそうだ。
平均3か月で入れ替わる女の子たちにいちいち強い興味や執着を持たないのかもしれない。
ライリーは意識高い系風俗嬢に使えない奴!と敬遠されるゆるい男子スタッフに似た雰囲気を醸し出している。
女の子たちに見くびられていていい感じで舐められているというのは男子スタッフの才能のひとつだと思うし、男優経験があるのもプラスだし、いい奴なのかも?と感じた。

女の子たちはライリーのネット広告を見て交通費を負担してもらってマイアミに来て、5つ寝室があるライリーの家で共同生活している。
家賃は払うようだ。
寝室数と女の子たちの人数から考えて2人部屋か3人部屋だから、払う家賃は高額ではないかもしれない。
食費はそれぞれ払っているように見えた(もしかしたら女の子たちが奢っているかも?と思うシーンもあった)。
エージェント手数料は出演料の10パーセント。
撮影場所への送り迎えはライリーがしてくれる。
宣材写真の撮影料はライリーが払っているのか自己負担なのか判断できるシーンはなかった。
ポルノに出演する以外にも、宣伝用の芸名ツイッターやチャットをしていたが、それは無償労働なんだろうなと思う。

カリフォルニア州ではコンドーム無しの撮影が禁止されているから、撮影はそんな禁止事項が無いマイアミで多く行われているそうだ。
ステラメイが仕事に反対する母親に性病や妊娠の不安は無いか聞かれて、検査をしてることと中出しをしないから大丈夫と答えていた。
ウィンドウピリオドのことや、先走りでも妊娠する可能性については知らないみたいだった。
他の女の子のインタビューで、中出し(クリームパイという隠語が紹介されていた)は禁止されているわけじゃなく、やると出演料が上乗せしてしてもらえる程度の日常的なことだという話も出ていた。
その女の子も特別不安そうな表情ではなかった。

アマチュア女優たちは3か月ぐらい経ってアマチュアと言える時期が終わる頃までに特別な売れっ子になれなければ、特殊な撮影かハードな撮影の仕事の依頼しか来なくなる。
暴力を振るわれ、罵られ、怯えさせられ、イラマチオをさせられ、嘔吐させられ、嘔吐したものを犬食いさせられる。
拘束され、巨大なディルドを入れられる(半分だけでも入ったら1000ドル、と言われていた)。
そういう撮影だ。

その事実を伝えるシーンを見るのはしんどかった。
これが多くのポルノファンに求められている人気ジャンルだという現実も怖い。

でもレイチェルとジェイドがその撮影の経験について話すシーンは素晴らしかった。
その場面で2人は有名大学の学生でポルノ女優の有名人ベル・ノックスも陵辱モノに出演した経験があることをライリーに教えられ、それまで「大嫌い」と言っていたベル・ノックスを違う目で見始める。
ニュース番組に出演して性の自己決定権を語るベルが陵辱モノ出演経験を言わずにいることについてジェイドが語り、レイチェルが黙って聞くシーンがこの映画の中で一番感動的なシーンだったと思う。
レイチェルとジェイドを大好きになった。

ステラメイが母親と恋人に仕事を辞めるように迫られる場面はとてもリアルだった。
なぜ辞めないの?と問い詰められて、ステラメイは口ごもる。
「お金のため」と言いきれるほど稼げてないし、やっと口にした本心に近い言葉である「どこへだって行ける自由も魅力」というのも母親にも恋人にも全く理解されなかった。
結局説得され、ステラメイは「ライリーに洋服を取りに帰るとメールさせて」と言う。
その時のスマホの画面がとてもとてもリアルだった。
その画面にはライリー宛に「何か仕事の依頼来てない?」というステラメイのメッセージだけがあり、ライリーの返事はなかったのだ。
「今は無いよ」という返事すらない完全スルーだ。

大半の性労働者の引退はこうだ。
かっこ悪いからなかなか認めたくないけど、ほぼ全員稼げなくなって終わるのだ。
恋人と親に説得されて辞めたというきれいな形に整えないドキュメンタリーなんだなあと感じた。

ステラメイは結局恋人とテキサスに戻り、レストラン(店名は「レッドネックヘブン」!だった。すごい店名つけるよね)で働き始める。
2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、みたいなシーンで終わっていたが、交際初期にポルノ女優であることを恋人の友達に嫌な感じでからかわれてた場面もあったし、ベル・ノックスが大学で受けたハラスメントやアリッサ・フンケさんの自殺(ポルノ出演が元同級生にバレて、SNSで晒されなじられたことを苦に自殺した)などを考えると、ステラメイがポルノを辞めても、このドキュメンタリーに出演して平穏な暮らしを続けられるのか不安になってくる。
アリッサさんの自殺についての記事⇨http://kaigaimax.blog.jp/archives/7101545.html

しんどいことをたくさん考えてしまう映画だけど、ライリーの家で女の子たちがはしゃいだりおしゃべりしたりしてる場面はどれもとても良かった。
ステラメイがポルノを辞めると決めた後もライリーに電話して「そこでの生活が懐かしい。子犬やバイクも恋しい。自由が手にはいるって思う」と言ってリラックスした表情になっていたことや、仲良しの女の子同士が再会してハグしている場面が心に残った。


●「Tricked(売春:闇の巨大産業)」
アメリカにおける性的人身売買の現状を鋭く追及したドキュメンタリー。年間30億ドル規模の売春産業の闇と、それに関わる警察、顧客、被害者の姿に密着する。

元性奴隷(sex slave)のダニエルのインタビューを中心に、いろんな立場で性的産業に関わる人達(取り締まる側やジャーナリストも語る)のインタビューで構成されている。
SEX WORKERのインタビューはなく、元sex slave、trafficking victimの被害者、現役prostituteだけが、直接性的サービスに関わる人として語っていた。

嫌な話ばかり。
ピンプのインタビューも露悪的でひどいものだった。
ダニエルの「あっせん者と客が捕まるべき」というメッセージが伝わりやすい映画になっている。

この嫌な部分から目をそらすべきではないと思うが、目をそらさずに少しでも良い社会にしていく行動は、セックスワーカーであることや元セックスワーカーだったこととは切り離してやっていきたい。
セックスワーカーであることを明らかにした時「あなたのように自己決定でセックスワーカーをやっていると言うような人がtrafficking victimの被害者やsex slaveを苦しめている」みたいなことを言われた経験が気持ちをややこしくさせる。

ダニエルが仕事や過去を明らかにしてもデモをする仲間やローラーゲームのチームメイトに恵まれ、生き生きとしているシーンがあるのが救いに感じられた。

●「SEX MY BRITISH JOB(英国の売春宿)」
ロンドン北部の娼家に潜入した覆面レポーターが、様々な事情で祖国を逃れた不法移民を中心とするセックスワーカーの搾取の実態を暴く。

Netflixを契約して一番最初に見たのがこれだった。
顔を晒している人と目線を入れてる人の人選が謎で、顔を晒してる人に許可を取れているとはどうしても思いにくく、なんか混乱して素直に見られなかったが、今回そのあたりを気にしないようにしてがんばって観てみることにした。

ガーディアン紙の記者シャオが家政婦として娼家に潜入し録画機能がついたスパイ眼鏡で撮影したドキュメンタリーだが、中心は娼家の様子ではなく、家政婦として働きたいシャオが経営者のメアリー(中国系不法滞在者)に「売春婦として働け」と脅され続け、シャオの心がどう変化していくかが中心になっている。

最初は「やりたくないなら売春はしたらダメ。徐々に自尊心も失っていくよ」とシャオをかばっていたセックスワーカーたちもメアリーの戦略でどんどんシャオと距離を置くようになっていく。
ラリっていて勃起しない客を相手に12時間以上働いてヘトヘトになっているセックスワーカーに「ちょっとでいいから手伝って」と頼まれて、内心潜入取材でなければ手伝うはずだと落ち込みながらも断り続けるシャオとセックスワーカーの間にさらに溝ができる。
人手が足りなくてオーナーのメアリーもセックスワーカーとして働くこともある娼家で、セックスワーカーを差別していると受け取られずに直接性的サービスに関わらない立場を貫くのは難しそうだ。

シャオも移住者なので、記者である立場を離れてメアリーの言葉に深く傷ついてしまうようになる。

シャオが「私自身も移住者だからしんどいのかも。メアリーの言うことに納得している自分がいる。メアリーを含む多くの不法移住者の女性にとって売春は仕方がない手段だと思うわ。家族のために手っ取り早く大金を稼げるんだもの。だから彼女に説得されると折れそうになる。彼女はキツい言葉で罪悪感を刺激するの。”家族の役に立て””親孝行はしないのか””この国に来た理由を思い出せ”身につまされる話ばかりだわ。海外からの移住者なら誰もが考えるとても大事なことなの。だから聞き流せない。これはただの取材だって割り切れなくなっている。取材が終わっても現実に戻れない。これが現実だもの」「私もかつて家族に罪悪感を感じながら送金していた。近所の人や友人など全ての知り合いに罪悪感を持った。お金がない時も送金しようとした。苦い記憶が蘇る」と語る場面は危うくて、見るのが苦しくなる。

ラスト直前とうとうメアリーの言葉をはね返すことができずにセックスワークをやらされそうになったシャオが、毎日こっそり待ち合わせてスパイ眼鏡の録画映像を回収する係をしている取材スタッフにメールで連絡し、偽客として来てもらい、この潜入取材を終えると告げる場面がちょっと笑えたのが救いだった。
そのおっさんスタッフは「なぜ僕を呼んだんだい?」と聞き、シャオが自分とセックスするために呼んだんじゃないことを理解し「コンドームは必要ないね」と弱々しく言ったのだ。
ちょっと笑えた。


●「AV俳優たちの第二の人生」
人気ポルノスターは引退後どのような生活を送るのか?ポルノ界の頂点を極めた人々が”普通”の生活に溶け込んでいこうとする姿を追ったドキュメンタリー。

登場したポルノスターの考え方も生活も多様で、ポルノの仕事をしていたことの影響は強い力があるけど、それに縛られてしまわず自由に生きることができると思えた。
つらい話も多いけどそれぞれの人が持つ幸福が伝わって、いいものを見たなと思えた。

●「ホットガールズウオンテッド〜オンラインラブ」シーズン1-1「女性上位」
ホリー・ランドールとエリカ・ラストの2人がフェミニズムの視点をエロティック写真や映画に反映させ、女性のための上質で魅力的なポルノを作り出す。

Netflixのドキュメンタリーを見てるとヘトヘトになって希望も持てない感じになってくるんだけど、そういう時にこれを見るとちょっと元気出ます。
世の中捨てたもんじゃない!と思いたい時、ぜひ観て。


というわけで今回はNetflixで観られるものをご紹介しました。
Netflixは便利(このコラムで過去に紹介した映画もたくさん観られます)だけど、時間泥棒でもあって、この原稿を書くためにNetflixを見始めたのにうっかり「ル・ポールのドラァグレース(タイラ・バンクスの「アメリカズネクストトップモデル」のドラァグクィーン版)」を見ちゃったりしてなかなか書き上げられませんでしたわ〜。
リアリティショーってつい見ちゃうよね、気をつけましょう。

気をつけなければならないけども「アンという名の少女」は観るべき。
素晴らしい作品だから!
と言い添えて終わりにします。

Netflix https://www.netflix.com/browse


✳︎追記✳︎
Netflixが見られない人のために1つ面白かったドキュメンタリーを紹介しとく。
フジテレビ系で放送された「脱ぐオンナたち〜アイドルになる〜」がすごくよかった。AV女優さんのアイドルグループ「SEXY J」のメンバーそれぞれに密着してて、嫌な気分にならずに見られた。タイトルで検索したらネットで見られると思うので見てみて。
http://www.fujitv.co.jp/nonfix/library/2016/671.html

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職種
売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。