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Sex Workerが観るSex Work映画〜その2「嫌われ松子の一生」 |
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「嫌われ松子の一生」はわりと流行った映画だから、観たことある人多いんじゃないかな?
あたしも公開時に観た。
松子という昭和22年生まれの女性の「転落人生」の話、女教師が風俗嬢になって53歳で孤独に死ぬ話。
大好きなわくわくする映画「下妻物語」の監督だし、ミュージカル仕立ての場面はあるし、流行ってる映画の主人公が風俗嬢なら観ないわけにはいかない性分なので観たけど、
観る前にざっくり知ってたあらすじはとても元風俗嬢のあたしが観たくなるようなものじゃない。
だから多分自分が傷つかないように守りながら観てたのかなあ、今回この原稿のために観直すまで勘違いしたままだったことがあった。
一番の勘違いは松子が作家志望のDV恋人に無理矢理トルコ(当時ソープランドはそう呼ばれてた)で働かされたと思い込んでたことだ。
たしかに松子の恋人が松子に「トルコで働け!」と怒鳴り、松子はトルコに面接に行くのだが、その時松子は服を脱げなくて面接に落ちている。
松子がトルコ嬢になったのは、全然違う理由だった。
そのDV恋人が自殺した後、次の恋人に捨てられる時「君のことは愛してなかった。料理の味付けも嫌いだった。が君の身体はよかった」と言われたことから、一度面接で落ちたトルコに行く気持ちになって、今度は自信を持って服を脱ぐのだ。
風俗で働いたことがある人にとってはこの話は特別突飛な話じゃないよね?
映画の世界では「売り飛ばされて」とか「借金があって」風俗嬢になる人がとても多いけど、実際にはそうじゃない理由の人がたくさん居る。
あたしはなんで勘違いして覚えてたんだろう、トルコ時代の古い話だし、なんとなく松子は男に貢ぐために風俗嬢になったんだと思い込んでたんだな。
その後、松子はナンバーワンになるけど、素人ブームに乗れなくてクビ、ヒモと出会って雄琴に流れていき、仲違いしたヒモを殺して自殺未遂をするが、結局刑務所に入り、刑務所で美容師の資格を取り、出所してから美容師になる。
今度はやくざと出会って、彼のために身体を売ることを含めて「一緒に居るためなら何でもする」暮らしを始める。
結局そのやくざにも拒絶され、また独りになり世間を拒絶して暮らすようになって、最後は河原にたむろする若い子たちに、腹立ちまぎれに撲殺される。
こんなあらすじの映画をSWと元SWにわざわざ紹介するのは、松子がそもそもトルコ嬢になった理由がリアルだからってだけじゃない。
この映画には、ものすごくいいシーンがあるから、そこをどうしても観てほしいから紹介したくなったのだ。
松子にはめぐみという親友がいる。そのめぐみとのシーンだ。
松子とめぐみは刑務所で知り合い、出所してから偶然に出会って何でも話せる親友になる。
刑務所を出てからストリップをやっていためぐみがAVに出演したことを松子に報告するシーン。
松子はめぐみに「泣かなかった?」と聞く。
めぐみはむしゃむしゃと甘いものを食べながら、陽気な声で「現場にマネージャーの旦那も居るんだよ。泣くわけないよ!」と言い終わらないうちに泣き始める。
そのシーンはあたしの宝物だ。
その宝物は現実のあたしの世界でもたくさん経験した、SW同士何も言わないでも分かりあえる瞬間だ。
源氏名同士のあたしたちの、嬢バレが怖いあたしたちの、個別には語れない物語りがあのシーンにある。
「嫌われ松子の一生」は全体的にはしんどい話だけど、そのめぐみとのシーンはすばらしいし、トルコ嬢時代の松子をミュージカル仕立てでまとめてるシーンの仕上がりも面白いし、一度観てほしい映画。
マットプレイ訓練やスクワットをミュージカル仕立てでこなす風俗嬢たちのシーンはかなり楽しいのでそこもお薦め。
お客さんの立場の人はあれを観てどう思うのかな?
実際あたしたちあんなかんじで努力しちゃってるんだよ~って言ったら萎えるものですかね?
中谷美紀は元風俗嬢の役を最近の映画「ゼロの焦点」でもやってる。
そっちは昔風俗嬢をやってたことを隠すために、どんどん人を殺しちゃう映画なので、お薦めしにくい。
観る場合は「もし昔風俗嬢やってたことをバラすって脅されたら…」とかうっかり考えてしまわないように気をつけて観てね。