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Sex Workerが観るSex Work映画〜その3「愛の新世界」 |
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あたしが風俗の仕事を始めたきっかけを書きたい。
あたしは性感染症に関する電話相談の相談員をやっていた。
そこで初めて風俗で働く人と話をした。その人はニューハーフヘルスで働いている人で、コンドームをつけたがらない客のことで何度も相談電話をかけてきてくれていた。
あたしは性感染症については詳しくても、ニューハーフヘルスはもちろん風俗の仕事をほとんど知らなかった。
そんなあたし相手では頼りなかっただろうし、まどろっこしかったと思うが、その人は辛抱強く仕事の場で起こる困難について説明してくれた。
何度も話す内にその人とあたしの間には会ったことない者同士なりに信頼関係のようなものが生まれた。とあたしは思っていた。
がその人はいつまでもあたしを「先生」と呼んだ。
あたしは先生なんかじゃない。
一緒に困難を乗り越えるために知恵を出し合う仲間のようなつもりだった。
もちろん風俗嬢を差別してないと思っていた。
でも「先生」だ。先生なんだなあ。なんで?なんで?その人とあたしの間にあるこの溝はなんだ?
その溝の淵をうろうろしていて、あたしはハッとなった。
あたしはなぜ風俗嬢にならないのか?という疑問が浮かんできたからだ。
その時のあたしは幼い子どもと二人暮らしのシングルマザーだった。
当時子どもは保育園の卒園を控えていて、小学校にあがったらどうすればいい?とあせっていた。
9時5時の仕事を続けながら、昼に学校から帰ってくる子どもを育てるのは難しい。
子どもの都合に合わせることができる・短時間で稼げる仕事をあたしは探していた。
が、あたしの選択肢には風俗はなかった。
本当に風俗も他の仕事と同じように仕事としてとらえられているならなぜ自分の転職先として考えてもみないのか?
摘発されるかもしれない仕事だからか?
たしかに摘発されるのは困る。
が、本当にそれだけだろうか?
自分に猛然と腹が立ってあたしは風俗の仕事で働こうと決めた。
摘発や性感染症が怖いだけなら、あたしがやってみない理由にはならない。
あたしには電話相談をする中で得た知恵や工夫がある。
摘発されず性感染症にもならず働くことができるはずだ。
あたしは出張SMで女王様として働き始めた。
出張SMを選んだ理由は、SMの知識があり道具や衣装も持っていたというあたしの個性もあるが、
持っていたマニア雑誌の求人広告を見て電話をしたら、経営者が元SM嬢の女性だったということや、
その店は必ずホテルへの送迎があって危険対策ができていることが安心につながったからだ。
しかしそもそも他の業種は考えられなかった。
当時のあたしは身元がバレることをものすごく警戒していて、うっかり知り合いと客と風俗嬢という立場で出会ったら?という不安を捨て切れなかった。
SMなら、あたしが「風俗嬢という人に言えない弱み」を持っているけれど、相手も「変態という人に言えない弱み」があるから大丈夫と思えたのだ。
他の風俗の場合は、男が買春する恥と女が売春する恥のレベルが違いすぎて安心できなかった。
働いていく内にその不安は小さくなった。
慣れただけではなく、コントロールする力やリスクを正しく判断ための知識を得たからだと思う。
というわけであたしはSM以外の業種でも働いて、約10年間の風俗嬢時代を過ごした。
これがあたしが風俗嬢を始めたきっかけ。
働いていて感じたことは映画の紹介を兼ねて書くことができるけど、きっかけについてはこんなかんじで書き始めないとなかなか書けない。
なんで急にきっかけの話をしたくなったかというと、
「愛の新世界」という映画が「HDリマスター、無修正完全版で復刻!!」になってることを最近知ったからだ。
「愛の新世界」はあたしが出張SMクラブで働き始めた頃に公開になった映画で、
「愛の新世界」の疾走感は当時駆け出しの風俗嬢だったあたしをずいぶん励ましてくれた。
懐かしい映画だ。
最近新しく知り合う風俗嬢の友だちは「愛の新世界」を知らない子ばっかりだから、ぜひ観てもらってあたしたちが出会えたことを祝いたい。
映画の中の出張先のラブホテル街で顔見知りになったホテトル嬢とSM嬢が仲良くなるというエピソードのように、風俗嬢であることをほとんどの場面で隠して暮らしているあたしたちが風俗嬢同士として出会えたことを祝いたいのだ。
というわけで、ぜひあなたもご一緒に。
参考URL
amazon「愛の新世界」
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補足説明〜「愛の新世界」
「愛の新世界」は1994年公開の日本映画。
1993年に出版された島本慶の風俗ルポエッセイ付きの写真集を元に作られた映画なので風俗嬢の生の声が反映されている、ということになっている。
ストーリー仕立てだからちょっと無理があるところもあるし、古い作品なので痛痒い気持ちになってしまうところもある。
でも風俗で働いたことのある人が観ると楽しい映画であることは間違いない。
あたしはホテトル嬢が引退する時の中華屋での送別会のシーンがすごく好き。
こないだこの映画の話をした元ヘルス嬢は「ナポリタン」って隠語を覚えてるわ〜って言ってた。
あたしはそのナポリタンのことはすっかり忘れてたんだけど、話す内に思い出してなんか盛り上がりましたわ。