HOME > 風俗嬢コラム Worker's Live!! > Sex Workerが観るSex Work映画〜その6「タイトロープ」
Sex Workerが観るSex Work映画〜その6「タイトロープ」 |
---|
あたしがこの原稿用に使っている御苑生笙子(みそのおしょうこ)という名前は本名じゃなく、出張型の店で働いていた頃の源氏名をそのまま使っている。
名前の由来は、経営者があたしと雰囲気が似てる「リョウコちゃん」って子と2人女王様の仕事をさせたらおもしろいかなと思いついて「ショウコちゃん」ってのはどうかなと言いだして、あたしが適当に名字と漢字を当てた。
「適当に」っていうのは表向きで、心を許せる人には「風俗嬢が殺される事件が多いから縁起担ぎで生って文字が2つも入った名前にしたんだよ」と本当のことを話していた。
風俗の仕事ではない人には印象に残らないと思うが、風俗嬢が仕事中に殺されたり暴行されたり強盗されたりというニュースはまあまあ多い。
今年になってからもデリ嬢が客にスタンガンで脅されて現金を奪われたり覚せい剤を打たれる事件があった(「スタンガンで脅し、風俗嬢に覚醒剤注射」)し、去年デリ嬢がいつも自宅に呼んで延長してくれる馴染み客に無理心中された事件(「デリヘル嬢なぜ死んだ 15時間指名し続けた男の“人生”」)はかなりショックだったが、たいした話題にならなくて、ずいぶん孤独な気持ちになった。
風俗の仕事に就く者は「人にとって大切な性的な部分を割り切ることができるイカレタ人」「コワイ仕事だということをワカッテナイ愚かな人」と思われがちだけども、日々直面させられてる分他の職種の人より考え悩んでいる。
出張仕事で初めての客が待つドアを開ける時の不安は、あたしが時間どおりに出て来なかったら運転手さんが助けてくれるってことと携帯電話だけではぬぐい去れなかった。
自分の源氏名に「生」って文字が2つもついてるっていう縁起担ぎが何にもならないのは分かっていても、湿った匂いのするラブホテルの廊下を一人で歩く時の独りっきりのあたしにとっては「御苑生笙子」が支えだった。
「あたしは90分後生きてこの廊下を歩くんだっていうイメトレ」に必要な名前だったと思う。
そういう生活を送っていると、映画を観る時ぐらいはセックスワーカーが殺される映画は観たくないと思うわけだが、セックスワーカーが登場する映画の大半はセックスワーカーが殺されたりヒドい目にあうので、観る映画が無くなってしまうし、避けていたって予告編やあらすじにも紹介されないちょっとした場面でちょいちょいセックスワーカーが殺されてしまうので完全に避けるのは無理だ。
というわけで今回はそんなセックスワーカーが殺される映画の中からお薦め映画を選んでみた。
「タイトロープ」という映画は、あたしが「女性の敵!」という印象を持っているクリント・イーストウッドが主演のサスペンス映画。
娼婦殺し事件を捜査するシングルファーザーの刑事が、捜査の中で知り合う娼婦たちと肉体関係を持ち(買春なのか無料奉仕なのか恋愛めいたものなのかははっきりと描かれていない)、犯人は何故かその刑事に執着しており刑事が関係を持った娼婦が次々と殺されていくという話。
殺される場面は無く、死体もむごたらしくは映っていないので安心して観られるっていうのがまずいいところだと思う。
性被害に遭った女性のための活動をしている女性(彼女が女性達に護身術を教えたりもしている事務所には「speak out. you are not alone」と書かれたポスターが貼ってある)が登場して、彼女がセックスワーカーを一般女性と区別しておらず、セックスワーカーを見下したりしていない様子なのもいい。
買春にもインターコース以外のセックスにも縁のなかった刑事がどんどん風俗にはまっていくのも、玄人童貞の急成長として観ると楽しい。
娼婦たちと刑事が会話する中で彼女たちの意見や生活が見えるところが、一番のお薦め。
余談だが、あたしは「日本に多様な性の売り方があるのは本番だけが売春防止法にひっかかるからで、よその国には日本のような多様な性の売り方は無い」と思い込んでおり、この映画で箱ヘルが登場する場面で驚かされたという思い出も書いておきたい。
あの時一緒に映画を観てこの驚きを共有できる嬢友が欲しい!と思ったのだ。
シングルベッドぐらいのサイズしかない狭い部屋で手の甲に固定するタイプの電マを使ったサービスをするメガネ娼婦。
たいていの人にはひっかからない場面かもしれないが、彼女の登場場面があたしにとって一番印象が強い思い出のシーンになっている。
いくら見所が多い映画とはいえ娼婦がたくさん殺される映画を観ると後味は悪くなると思うので、その後味を少しよくする映画も紹介する。
(この映画紹介コラムは風俗街にあって仕事の行き帰りに寄れる2本立て映画館をイメージしております)
「タイトロープ」と2本立てで観るのにちょうどいい映画は、同じクリント・イーストウッド主演の「許されざる者」。
今年渡辺謙主演で舞台を日本にしてリメイクされた映画が公開されるらしいので最近ちょっと話題になってますね。
「許されざる者」のあらすじをセックスワーカー目線でまとめるとー。
酔っぱらいの客が娼婦の顔に傷をつけるという事件が起き、保安官が来るが、保安官は客に娼館のオーナーへの賠償を命じるだけで、顔に傷をつけられたことで仕事を失った娼婦無視され全く配慮されなかったので同じ娼館で働く娼婦たちが怒り、その客たちを殺した者に賞金を出すことにする。
という話。
保安官や雇い主にバカにされ脅されても、客にヒドい目に遭わされた仲間のために賞金稼ぎを雇う娼婦たち!
ホントにかっこいい。
賞金稼ぎたちが前借りで娼婦と寝たり、娼婦たちも実は賞金を出すあては無かったり、という切実なエピソードの合間に、顔に傷のある娼婦と高齢賞金稼ぎの間に信頼関係が生まれるシーンがあり、そこもとてもいい。
クリント・イーストウッドはあんまり好きになれない俳優なのに、今回はクリント・イーストウッド2本立てになりましたね。
次は好きな俳優さんをとりあげたいです。
ではでは。
参考リンク:
タイトロープ
許されざる者
許されざる者(日本版リメイク)