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メンタルヘルスラボ★ 風俗業界によって救われたメンヘラちゃん 星屑ひろむ |
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大げさな言い方かもしれない。でも言う、風俗業界がなかったらわたしは今ごろ野垂れ死んでいたかもしれない。
高校時代からうつ病と摂食障害を患い、卒業後は接客業やデスクワーク、飲食店の裏方のアルバイトとして社会に出るもどの仕事も人並みにこなすことができなかった。20代前半のころは、「普通のアルバイト」と「風俗嬢」を行ったり来たり。もう十数年ほど向精神薬を大量に処方され続けていたため、わたしの前頭葉は委縮している。症状が悪化し閉鎖病棟へ入院したことも数回。それでも安定した生活を求めてハローワークへ通い、ようやく雇ってくれる会社に出会った。
周囲から初めは期待をされたものの、要領が悪いのかわたしのやる業務はケアレスミスだらけで次第に仕事を干されるように。そして限りなく社内ニートに近い形でOLとして働きつつも、出勤前は毎朝死にたい衝動に駆られながら家を出て、睡眠薬が抜けきらない体で紆余曲折しながら歩道を歩く。会社へと続くその歩道は地獄への道のりにしか見えなかった。それでもこの不景気に正社員としてわたしを雇ってくれた会社を辞める勇気もない。当時20代後半で頭のゆるゆるなこのわたしがまっとうな会社に転職できる気も、これっぽっちもない。
たとえ小さなことでも仕事で成功をしていれば、その積み重ねで社会人として生きていく自信が持てただろう。成功の積み重ねは自信につながるが、わたしの場合は失敗の積み重ね。自己評価は低くなるばかりだった。業務をこなしながらときどき頭に浮かぶこと、「また風俗で働きたい」。風俗店に勤めているときはそれなりに売れていた。風俗嬢として働き成果を上げる自信だけは無駄にあった。若いころに舐めた甘い蜜の味はなかなか忘れられるものではない。
とにかく3年間は今の仕事を続けよう。3年経って、会社での自分の立ち位置や精神状態が悪化するようなら辞めよう。そう決心した。ただ、常に頭から離れないのは「また風俗で働きたい」という気持ち。わたしはある日衝動的に、20歳のころに働いた風俗街へ足を運んだ。猥雑な雰囲気をぷんぷんと放つその街へ行くと、妙な安心感に包まれた。そしてわたしはマンションの一室を開ける。センスのない有線。ホワイトボードに貼られた女性の出勤表。雑多に並べられたパネル写真。それらがすべて懐かしくて愛おしい。
「平日は仕事があるので、土日だけ働かせてください」「では、今週末から出勤してもらえますか」。勢いにまかせて流れるままにたどり着いた風俗街、わたしの居場所はここだと思った。
平日は会社へ。土日は風俗店へ。休日は土日に生理がかぶったときのみ。月の休みはほぼない。体はへとへとだけれど、風俗嬢として働くことが楽しくてしょうがない。精算時にお金をもらうときよりも、フリーで接客したお客さんが本指名で返ってきたときの喜びのほうが大きく、いかにしてお客さんを自分に返すか、そのことに対して仕事のやりがいを見出していた。出勤が少ないせいか本指名数こそは多くなかったが、入店して間もなくリピート率は店で五本の指に入るようになっていた。会社でも、それ以前にしていたあらゆるアルバイトでも仕事ができず空気扱いされることが多く、あまりの仕事の覚えの悪さによりクビになったことも数回あったというのに。表社会では大して役に立たず売り上げに貢献することができなかったわたしも、この業界では需要がある。万札を払って会いに行く価値があると思ってくれるお客さんがいる。リピートを多く返せば店からも大切にされる。
もしお客さんがつかずに、待機室で常に暇を持て余しているような状態であればわたしは未練なくこの業界から去ることができたかもしれなかったが、そうではなかった。必要とされることがうれしくてうれしくてしょうがない。やっぱりわたしの居場所はここなんだね、とセンスのない有線と在籍嬢同士が談笑する声を聴きながら改めてそう思った。
OLと風俗嬢、二束のわらじで働きつつ数ヵ月が経ち、そして入社してから三年が経とうとしていた。入社してからそれまでの間、仕事に対する不安感と比例して睡眠薬の量は莫大に増えていた。薬で朦朧としながらもなんとか業務をこなしていたが、相変わらずミスは多いまま。
「わたしはここにはいらない人間だ」。周囲に気づかれぬよう、ボールペンの先を自ら手の甲に突き刺し流血させることで自分への怒りを鎮めて心を安定させようとした。トイレの個室で血を拭い、絆創膏を貼りながら決心した。
「会社を辞めよう」。入社してからちょうど三年が経った初夏のこと。
会社を辞めてから、わたしは風俗一本の暮らしをしていくことになる。貯金もさほどなかったが、不安もなかった。午前中は睡眠薬が抜けずうまく動けないので遅番でレギュラー勤務。一日の売り上げよりも、本指名数を増やすことにひたすらに没頭していた。
「体だけであろうとも、自分を必要としてくれる人を増やしたい。そして店から実力のある嬢だと認められたい」。
そういえばわたしは幼少期から親に怒鳴られるばかりで褒められることが少なく、学生時代も人間関係をうまく築き上げることができず一人でいることが多かった。OL時代に仕事の成果を上げることができなかったなかったから、それだけではない。子どものころからずっと、自分はいらない人間なのではないかと思っていた。だからこそ今、その穴を埋めたい。必要とされたい。認められたい。お客さんが「今日は会いに来て本当によかったよ」と屈託のない笑顔で言ってくれることが本当にうれしくて、その積み重ねでわたしの心に空いた穴が埋まっていく。
心の穴が徐々に埋まるにつれて、睡眠薬の量も減っていった。毎日のように死にたいと思っていた気持ちはスッと消えてぐんと快活になった。順調に返ってくる本指名のお客さんの数と彼らの笑顔が、自信へとつながった。風俗で働くことによって心の穴を埋めようとするのは間違っているのかもしれない。けれど、この仕事がなかったらわたしの心は今ごろ潰れていただろう。
会社を辞めて後悔したことは今まで一度もない。風俗業に携わって心を病んだことも、ない。若いころにうつ病や摂食障害になった原因は風俗とはまったく別のところにある。風俗嬢になって心を病んでしまう人は多くいるようだけれど、わたしはその逆。この仕事があって救われた人はわたしのほかにも多くいるのではないだろうか。
「見た目よりもなによりも、君の心が好きだから会いに来るんだ。いつも癒されるよ。ありがとう」。
とんでもありません。こちらこそありがとうございます。わたしのことを必要としてくれて、わたしのサービスで喜んでくれて本当にありがとう。生きていて、よかった。この仕事があって、本当によかった。