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Sex Workerが観るSex Work映画〜その9「サティスファクション」 |
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「サティスファクション」はセックスワーカーを描いたオーストラリアのドラマ。
ドラマに出てくるセックスワーカーっていうと、一番に刑事ドラマに出てくる殺人事件の被害者が浮かぶ。
そういうドラマを観るたびに「ふしだらな女を罰したい」という連続殺人犯ってどんだけ多いの?と絶望的な気分になる。
事件の目撃者の聞き取りで街娼に刑事が声をかける場面もよくあるなあ。
「悲しい過去」を隠して暮らしている元セックスワーカーが過去を知る悪人に強請られるってのも何度も観た気がする。
でも最近はそんな「またか…」ってかんじのつまらないものばかりじゃなくて、ちょっと面白いものもある。
例えば「CSI:科学捜査班※1」のキャサリン・ウィロウズ捜査官。
キャサリンは元ストリッパーで、彼女の職歴がからんでくるエピソードはつらいものも勇気づけられるものもあって、どれもみんな好きだったなあ。
「コールドケース※2」にはレギュラーのセックスワーカーの登場人物は居ないけど、時々すごくいいエピソードがある。
最近観た回では、刑事が聞き込み調査をしている中で元セックスワーカーのソーシャルワーカーに出会う場面があって、とても勇気づけられた。
元セックスワーカーのあたしにとって、元セックスワーカーが前職を隠さず暮らせている描写を見ることはそれだけで勇気づけられることだ。
娼婦が連続殺人犯に殺される場面を見ることをがまんしてでも見る価値がある。
ちょっと希望が出てきたね。
でも「サティスファクション」はもっとずっといい。
「サティスファクション」は、ここまでに書いたドラマのどれとも全然違うドラマ。
ドラマに出てくる主要な登場人物が全員現役のセックスワーカーなのだ。
医者ドラマの医者たちのように、学園ドラマの教師や生徒たちのように、仕事の場だけでなく、仕事の場以外のセックスワーカーたちの生活や気持ちが描かれている。
あたしたちセックスワーカーがセックスワーカー同士で話す時必ず出てくるような話もたくさん描かれているのだ。
主要な登場人物は、クロエ、メル、ヘザー、ローレン、ティッピの5人。
全員現役のセックスワーカーで、メル以外は「232」という店に所属している。
232は個室のプレイルームがある店舗型の風俗店で、出張の仕事も時々ある、というかんじ(メルの出張仕事に店の女の子を借りるという話があり、その時は経営者側に「店に20%入れて」と言われていた)。
仕事内容は本番メインだけど、フェチ客率が高いなあという印象(本番シーンばっかりじゃ絵面の変化が無いからかもね)。
プレイ料金やセックスワーカーの手取り率はシーズン1を観た限りでははっきりしない。
シーズン1の1話目で、セックスワーカーが脱いだ下着を嗅ぎながらオナニーする客に当たって「完璧な紳士だった見てるだけで500ドルよ」みたいなことを言う台詞があるので、1時間500ドルぐらいの店なのかなあと思う。
1話目の最初のシーンはプレイ時間の終わりのコール音で始まる。
コール音が鳴る中で裸の客とティッピがこういうやりとりをする。
「延長する」
「最初に言わなきゃ無理よ。次の予約がある」
「俺のほうがいいのに。よかった?」
「あなたって最高」
「みんなに言うんだろ?」
「気に入ったお客にだけよ」
「来週も再来週も会いたい」
「レギュラーになるのね」
「外で会いたい。映画を見たりしよう」
「デートの誘いね。諦めて。それはあたしの仕事じゃない。あたしはセックスワーカーよ。あなたも分かってるでしょ」
この短い場面を観ただけで、これは観るべきドラマだって分かった。
それからすごい前のめりでシーズン1の全10話を一気に観てしまった。
予想の何倍もおもしろくて、全然止められなかった。
クロエは14歳の娘と恋人男性と暮らすシングルマザー。
恋人はクロエの仕事を知っているけどヒモじゃない。
クロエは娘には仕事のことを話してなくて、娘が14歳になるまでには仕事を辞めるつもりだったのに…と悩んでいる。
うっすらバレて嘘をついてしまってどんどんこじれて、5話で娘にセックスワーカーだと明かすんだけど、そのカムアウトは美化されてないし全くすっきりしない収束をする。
もやもやっとするのだ。
怒鳴って泣いて、辞めて!と言われて終わり、にならない。
そのもやもやをドラマにしてくれたことがとても尊いなあと思った。
「割り切ってる」と言われがちなセックスワーカーだけど、割り切れない複雑な世の中でセックスワーカーだけが複雑さから無縁で居られるはずない。
大半のセックスワーカーは「そんな仕事辞めて!」と「稼いで!」との間のもやもやの中を揺れながら迷いながら働いている※3。
クロエのエピソードには子どもへのカムアウト以外にも仕事をめぐるいろいろな割り切れなさが描かれている(ヤギのイメージ映像挿入はちょっとおかしな効果になってるけど…)。
ローレンは夫にセックスが下手だとなじられて離婚した中年女性。
下着屋の店員として働いている時にメルと知り合った。
オーストラリアのセックスワーカーは仕事に使うものの買い物を経費で計上できるので※4、メルの仕事を知ったローレンがそういう世界を覗いてみたいと望み、メルの紹介で231のフロント係として就職した。
フロントで働く内に自分に自信を取り戻し、フロント係からセックスワーカーに転身したのだ。
ローレンの成長を通して、セックスワークは誰にでもできるくだらない仕事ではない、ということが描かれている。
ローレンがつまづくたびに仲間のセックスワーカーの協力やアドバイスをするシーンがあり、そのどれもが美しい。
セックスワーカー同士は客の取り合いで足の引っ張り合いばかりしてるんだろうと思われているかもしれないが、裸になって危険な仕事をしている者同士の絆は案外強いものだとあたしは感じている。
あたしの中ではそれはたしかなことだけど、ドラマでそれを観ることは今まではなかった。
客との恋愛や友情についても描かれている。
ヘザーはパートナーがいるレズビアンで、子どもが欲しいと思っている。
精子バンクを頼れず、自分たちで提供者を探しているがなかなか上手く行かない。
常連のあかちゃんプレイの客との間に友情が生まれ、ヘザーが彼に「レズビアンのセックスワーカーは母親になる資格はない、と神様に言われているような気がするの」と話して泣く場面の美しさ!
レズビアンカップルのどっちが妊娠するのか問題、レズビアンカップルの間の対等とは何か、というセクマイ的にとても気になる話も盛りだくさん※5なので、泣いてるヒマも無いぐらいなんだけど、その場面の美しさが胸にぐっときて泣かずにはいられなかった。
ひとつひとつのエピソードや台詞の素晴らしさを書き出したらきりがない。
どんな小さな場面も見逃せないのだ。
客にドラッグを飲まされそうになった時にメルがどうかわすかを見ることは、仕事の助けになるし、かっこいい捨てゼリフも満載で、メモ取りながら見たくなるぐらいだ。
セックスワーカーの友だちとも、非セックスワーカーの友だちとも、家族(家族はあたしがセックスワーカーだったことを知ってる)とも、「サティスファクション」を一緒に観てみたが、それぞれ違う見方で楽しんでいて楽しかったし、ドラマの感想を話し合うことで新しい発見がたくさんあった※6。
一緒のドラマを観て話すっていいよなあって思った。
自分が今抱えてる問題そのものを話すのではなく、セックスワークをめぐる話をドラマをとっかかりに話すっていうノリって今までなかった。
あたしは「サティスファクション」をケーブルテレビ(LaLaTV)で観たが、ケーブルTVを契約してない人もDVDで観ることができる※7。
ツタヤでレンタルもできる。
このドラマはシーズン3まであってオーストラリアではとっくに放送されてるけど、日本語字幕や吹き替えが付いてるのはまだシーズン1だけだから、みんながシーズン1を観てすっごく人気になってシーズン3まで字幕付きDVDになればいいなと思う。
シーズン1の終わりで232は売りに出て、彼女たちは231の10%出資者になり利益の10%を得られることになった。
すっごくわくわくするシーズン2になってると思う。
みんな観たいよね?
※1 CSI:科学捜査班 http://axn.co.jp/program/csi/ (キャサリン登場エピソードはシーズン12まで)
※2 コールドケース http://axn.co.jp/program/coldcase/
※3 クロエたち家族がカウンセリングに行くエピソードがある。クロエが担当カウンセラーと仕事で会ったことがあるかも?と思って集中できなくなり、それに気づいた娘が怒り始める。「セックスした関係の人をはっきり覚えていない」ということについてのセックスワーカーと非セックスワーカーの感覚の違いの埋められなさを感じた。
※4 オーストラリアと日本のセックスワークを取り巻く状況の違いを知るのはとてもおもしろい。あたしが今ワーキングホリデーを利用できる年齢だったら絶対オーストラリアで働いてみるだろうなと思う。ドラマで描かれているセックスワークの環境にとても興味がある。あたしが働いてた店と比べると231ってホントに羨ましいって思う。
必要経費が認められる。
健康保険がある。
コンドームを嫌がる客を断っても怒られない。
初めての客はプレイ前に性器のチェックをすることになってる。
フロントが仕事に誇りを持ってて仕事をきちんとやってくれる。
店の設備がちゃんとしてて貧乏臭くないし、必要なものは聞いてくれてちゃんと用意してくれる。
送迎ドライバーがしっかりしててうざくなくて気が利いたことも言ってくれる。
ワーカー用のヨガクラスを店でやってる。
ね?羨ましいよね?
※5 「あなたの客に精子提供してもらうなんて嫌よ!娼婦と寝るような奴の精子なんて要らない!」「あなただって娼婦と寝てるわ」「あたしは客と同じ?」というヘザーとヘザーのパートナーの言い争いの場面についてレズビアンのこともセックスワークのことも分かってる人とだけ話したい。すごく話したい。
※6 セックスワーク経験の無い人と一緒にセックスワークドラマを観ると、ぐさっと傷つくこともある。あたしの友だち達はあたしがセックスワーカーだったことを知っても態度を変えずに付き合ってくれるような人ばかりだけど、テレビドラマを観ながらしゃべってる時のリラックスしたゆるい言葉まで完璧であるはずないから。ぐさっと傷つきながら何も言わなかったりする時もあり、「えー、ちょっとひどいんちゃう?」と言える時もあり、いろんな日がある。「サティスファクション」の中でクロエの家のベビーシッターをしている女性がクロエの娘に「賢い女性はタダだと思ってる男に対価を払わせるんだよ」とセックスワークを説明するシーンがある。この女性とクロエの友情が築かれた過程にもいろんな日があっただろうと思う。クロエと彼女のような関係を築くための過程なんだなあと思うと、ぐさっときたことを言わずにいた日のざわざわした気持ちもうまく受け入れられる。
※7 ケーブルTVで観た時は字幕で観てたけど、DVDは日本語吹き替えがあるので借りて吹き替えでも観てみた。吹き替え監督のセックスワーカーイメージが反映されてるのか、「え?こんなにセクシーなかんじで言うとこちゃうやろ?」みたいながっくり感もありおもしろかった。
サティスファクション(LaLaTV)
http://www.lala.tv/programs/satisfaction/index.html
サティスファクション(ツタヤオンライン)
http://www.tsutaya.co.jp/works/10104162.html