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Woker´s Live!!:現役・元風俗嬢がえがく日常、仕事、からだ

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彼女はアイドル(You are an Idol) Photo

げえっ、と愛梨ちゃんが声を出した。なにどしたの、と返事をしながら指差された方を見ると、テレビにニュース速報のテロップが流れていた。人気アイドルの女の子が、ファンの男に切りつけられたらしい。

ひどいことする人がいるね、と言うと、人じゃないクソだ、こんなことをする奴はクソ以下だ、と愛梨ちゃんは言った。たとえ私にしか会わない日でもきちんとマスカラを塗られた睫毛は、意志があるかのようにきりりと上向きに揃って瞳を縁取り(彼女は「むしろ弥生ちゃんと遊ぶときの方が仕事に行くときより顔に気合い入る」とよく言い、私としてはなかなか誇らしいことだ)、そこには嘆きと怒りが滲んでいる。頬と唇はオレンジピンクにぽわんと色づき、クソだのなんだのという汚い言葉はとても似合わない。でも私がやんわりと窘めようものなら、おもしろくなさそうにこちらを一瞥したあと「じゃ今度からお上品にうんちって言う」と言うだろう。だから黙っておいた。

引越しを明日に控えて、部屋には段ボール箱しかない。ここでひとりで寝るのなんだかやだよ、と言われて、泊まりに来た。
さっきのニュース速報では命に別条なし、と出ていたけれど、どのくらいの怪我なんだろうか。傷の詳細が生々しく報道されたりしたら、きっと愛梨ちゃんは夜通し、クソ野郎死ね、と怒りに震え興奮するだろう。なかなか寝つかないかもしれない。
テレビももう仕舞っちゃおうか?と訊くと、だめ!7時から見たいのあるから!あと8時からも!とにこやかに却下された。

宅配のピザを食べてお目当てのテレビを見終わったあと(さり気なくケーブル類を外してまとめた)、お風呂に入るともうたいしてすることもない。私たちは寝転がって他愛のないおしゃべりに興じた。

することがない最大の理由は部屋が真っ暗なせいで、それは愛梨ちゃんがうっかりカーテンを梱包してしまったために照明を点けられないからであった。
丸見えになっちゃうよ、とあきれた私に、愛梨ちゃんは「すごい!今のセリフお客さんみたい!」と言って猛烈にはしゃいでいた。そののち至極申し訳なさそうに『カーテン』と書かれた箱をのろのろと開けようとしたので、いっそ真っ暗で過ごしてみるのはどうかと私は提案した。
すると愛梨ちゃんは、やる!と叫び、別の箱を勢いよく開けた。なにしてんの、と言うと、防災バッグどこだっけ!とまた叫び、取り出したとても小さな懐中電灯を点けて振ってみせた。防災バッグとか持ってるんだ、と驚く私に向かって、大きく左右に、楽しげに、コンサートの観客のように。


「今から寝たら早起きになっちゃうねえ」布団にくるまり愛梨ちゃんが言った。もし早く起きちゃったら朝モス食べに行こうよ、と。
「へーそんなのあるんだ、朝マックしか知らなかった」と言って、iPhoneでその朝モスが何時までなのかを調べると10時半だった。
「早起きじゃなくても普通に間に合うよ」私は笑い、いつもの癖で立ち上げてしまったツイッターアプリをササッと終了させるとiPhoneを枕元に置いた。閉じる直前に「ざまあw」「嫌なら辞めればいいだけ」「ちやほやされたツケ」というような文字列が見えた。私は懐中電灯を消した。


暗闇の中、もうちょっぴり眠そうな声で愛梨ちゃんが言った。

「もう寝たかな。寝れたかな。……切られた子」

病院だからだいじょうぶだよ、きっとご家族もついてるよ。慰めるように私は、何も知らないというのに自信たっぷりに言った。するとしばらくして、愛梨ちゃんは話し始めた。

「あたしね、お客さんに刃物向けられたことあるよ」

こういう時、最初に発するのはどんな相槌が正しいんだろう。私はただ、えっ、とたじろいだきり固まった。

「なーんてねー。ちがうの、向こうは冗談だったの。冗談で、包丁をこう、さっとこう向けて、きみをころしてぼくもしぬー、って言っただけ」

その声はまるで、笑い飛ばして欲しがっているかのように聞こえた。けれど少しも笑うことができない。
愛梨ちゃんは続けた。

「終わったあとでね。テレビつけててね、なんか、ドラマだったかなあ、思い詰めて変になって心中しようとするところで。男の人がさ。泣きながらナイフ握って、僕たち天国で幸せになるんだ、君を殺して僕も、みたいなこと言う感じのとこで。お客さんはたぶんビールかなんか飲みたくて冷蔵庫のとこにいて、だからキッチンで、包丁が流しに出しっぱだったんじゃない?それ持って、テレビとおんなじセリフ言っただけ」

普段「仕事用のお衣装(笑)」と呼ぶ清楚で可愛い服を着た彼女が、男の部屋でビクンと硬直する姿を思い浮かべた。でも、服など着ていなかったのかもしれない。

「それでね、まあとにかくめっちゃ怒らせたの。よっぽどビクッとしたんじゃねーの?あたし。この人ついに気が狂った殺される!みたいな。ははは。急に超偉そうになってさ、笑うところだろ!?とか言われて。そんなに信用してないのかよとか言われて。そんで、信用してないにしても態度に出すのは、客を傷つけるのは接客業失格プロ失格、とかウワーッて超言われて!」

それから、どうしたの。
やっとのことでそう言った。暗いせいで、自分がどんな顔をしているか考えなくても済むのがありがたかった。顔を見られていたならば、やだーそんな深刻な顔、大げさすぎだよ弥生ちゃんは!なんて、言わせていたと思う。

「もーちょーあやまった。泣きそうな感じでおしとやかにあやまったよ。そういうつもりじゃなかったんです、ただあたしびっくりしてしまったんです……って。包丁はもうないけど、怒ってるそいつがフツーに怖いからさ、怖さは終わんないの。超あやまった。ウケる」

最後の『ウケる』が、パサッ、と床に落っこちた気がした。
大して気のきいたことも言えないでいると、愛梨ちゃんが、そうそう怒るといえばねーと言って知り合いの飼い犬(道行くバイクに怒る姿が可愛いのだそうだ)の話を始めたため、刃物男の話は終わった。

話し声が次第に柔らかくゆっくりになり、ついに沈黙が訪れた。
愛梨ちゃん寝たかな、と思い、でもどうしてか、まだ完全に眠りに落ちてはいない確信があった。
マスカラもつけ睫毛も落としたまぶたと、つやつやと光沢を帯びた頬が、この暗闇の中にある。手を伸ばせば届くくらいの場所にあって、内側ではとくとくと血が流れている。そのことが私の胸を締めつけた。

「ねえあいりちゃん」私は小さな声で言った。うん?と聞こえた。

「さっきの話の客……まじで、クソだと、思うわ。わたし」

ククッ、と笑う声が聞こえた。そして、ありがとやよいちゃん、と。
それからちょっとして、朝モスたのしみだねぇ、と、とろけそうに呟いたのを最後に、愛梨ちゃんは眠った。

私だけがなんだかずっと、眠れなかった。以前愛梨ちゃんが笑って話してくれた、「あたしを呼ぶのに必要な金額の最安値」とか「指名ポイントを最大に貯めればお給料は良くなるが、決して貯まらない仕組みになっているカラクリ」やなんかを、なぜかやたらと思い出していた。
愛梨ちゃんはいつかその仕事を辞めるんだろうか、そりゃあ、いつの日にかは辞めるだろう。でもいつ辞めるつもりなのかを訊いてはいけないと思った。早く辞めるべきだ、と言っていると受け取られたらと思うと、絶対に絶対に訊いてはだめだ、とひとりで緊張した。
そんなこと考えてどうするのかと眠りに取りかかるが一向に眠気は訪れず、寝返りばかりを打ち、自分の寝返りの音が愛梨ちゃんの頼りない寝息をかき消すことが、その度に心底許し難かった。


翌朝はなかなか起きられなかった。おねぼうさんのやよいちゃーん、と歌われながら、朝ごはんを食べに普段着で出かけた。急かす愛梨ちゃんの長い睫毛は、いつよりも上を向いていた。

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職種
売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。