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Sex Workerが観るSex Work映画〜番外編「入院しています」 |
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セックスワーク映画をセックスワーカー目線で観て紹介するこのコラムだが、今回書き手のあたし御苑生が事故で骨折して今(2014年8月現在)入院生活なので、お見舞いに来てくれてるセックスワーカー友との交流について書きたいと思う。
入院中に観た映画(病室でDVDプレイヤーで観た)もいくつか紹介するつもり(セックスワーカー映画も1本観たよ)。
あたしの今回の入院を知ってたくさんのセックスワーカー(現役も元も)がお見舞いに来てくれた。
現役時代から助け合ってきた古い友だちも来てくれたし、あたしが運営スタッフをしているセックスワーカーの自助グループSWEETLYで出会ったあたしの現役時代を知らない最近親しくなったワーカーも来てくれた。
セックスワークをしていることを知っている者同士が入院のお見舞いをするって実はとても珍しいことだ。
あたしの約10年の現役時代を通して同僚の入院のお見舞いに行ったことは一度しかない。
すごく親しくしてて家にも行ったことがあるすごく年上の先輩のお見舞いだ。
先輩とは特別親しくてたし、先輩は離婚したばっかりで家族が誰も居なくて気がねが無かった。
オンナノコ同士の連絡先交換禁止の店は多く(私語禁止の店もあるらしい)、そもそもあたしたちは知り合うことが難しい。
あたしが働いてた業種は2人チームで働くことが時々はあったし、特殊技術もあって講習を先輩ワーカーがやることもあったので、あたしとその先輩は親しくなることができた。
オンナノコ同士の交流を禁じてない店に所属していたとしても、入院のお見舞いに行けるほど親しくなるのは難しい。
入院ってのは本名でするもので、お見舞いに行こうとするなら本名を聞かないといけないからだ。
セックスワークをしている者同士が本名を教えあうのは難しいものだ。
その難しさは信頼関係を築くことで乗り越えられるものだが、その信頼関係を試すことになりかねない質問をしてしまうことはできれば避けたいことだ。
そういうややこしさを超えて、どこに入院するのか?や、本名を聞けたとする。
聞かれたほうもぐらぐらと揺れる。
本名を教えてよいものか?という迷いの先には、入院してる病院で口裏を合わせてくれるだろうか?という心配がある。
他の見舞い客や家族と鉢合わせして、どこで知り合った友だちなのか聞かれたらどうするのか?
打ち合わせることはできるか?打ち合わせができたとしてうまくやりきれる子か?
いろいろ迷う。
そういうわけであたしたちセックスワーカー同士は入院のお見舞いをし合うことはほとんど無い。
今回あたしの入院に大勢のセックスワーカー仲間が来てくれた(遠くで働いてるワーカーからお見舞いのお手紙も貰った)ことはとってもめずらしいことだと思う。
お見舞いに来てくれたセックスワーカー仲間たちは
ぬいぐるみとファッション雑誌をくれた※1。
ペディキュアをしてくれた※2。
マッサージをしてくれた※3。
あたしが毎週見てるテレビ番組を録画して持って来てくれた※4。
そしてたくさんの話をした。
仕事の話も家庭の話も恋の話も子どもの頃の話も、しなかった話は無かったんじゃないかってぐらいしたし、あたしの入院ストレスの話も聴いて貰った※5。
入院初期のあたしときたら、お風呂には入れてないし、おむつだし、カテーテルだし、酸素吸入はしてるしそりゃーひどい状態だったんだけど、気にしないでいられた。
「カテーテルや浣腸をしたことは何千回もあるけど、されたことはないわ〜」とか女王仕事経験のある子と笑ったりもできた。
早朝勤務で仕事帰りに寄ってくれた子に「お疲れ〜」と言えた。
これから仕事に行く子に「行ってらっしゃい!」と言えた。
来週から出稼ぎに行くと報告してくれた子に「ご武運を!」と言えた。
病室でたまたま顔を合わせた子同士が連れ立って帰って、「あの後一緒にお茶しました〜」とメールをくれたのも嬉しかった。
立ち寄ってくれる子だけじゃなく、遠くに住んでいる仲間たちから、待機室で書いたという手紙や外出先であたしのことを思い出して買ってくれたプレゼントも何度も届いた。
封筒には本名と住所が書いてある。
最初の話に戻るが、あたしたちセックスワークを経験した者同士が本名や住所を教え合うのはとても難しいことだ。
それでもあたしたちはこういうふうに繋がり合えた。
この繋がりが無かったら、あたしは今回のつらい入院生活は乗り切れなかったと思う。
本当にありがとう。
こういう繋がりが特別なことではなくなって、あたしたちセックスワーク経験のある者同士がいつもあたり前に支え合えるようになったらいいなあと思う。
このコラムがアップされる頃には退院できていると思う。
次は病室じゃなく、またセックスワーカーの自助カフェSWEETLYで会いましょう。
これを読んでくれているまだ参加したことの無い人ともいつか会えたらいいなあと思ってる。
遊びに来てね。
※1 ファッション雑誌の付録に鏡が付いてて便利に使ったのだが、縁起かつぎを気にする彼女は「鏡をプレゼントするのは縁起が悪いのに…付録についてたことを忘れてました…」ととても心配してくれた。
※2 最初の2週間寝たきりで姿勢を変えることもできなかったので、自分の視野に入るものは自分の足先だけだったからペディキュアだけが楽しみだった。マニキュアや除光液やシール持参で来てくれる子が何人も居て、何度も塗り替えてくれた(ちなみに入院中は手の爪にマニキュアはできない。体調をチェックするためだそうだ)。
※3 元セックスワーカーで今はセクシュアルなサービスの無いアロママッサージの仕事をしている子がやってくれた。プロの仕事をタダでさせてしまうのは申し訳なかったが、やらせて、と言ってくれた。セックスワーク経験のある人の「遠慮する人に好意をうまく受け取ってもらう力」って特別すごいと思う。
※4 病室にテレビはあったが、ベッドのすぐ側だし首の角度が難しくて見るのが大変だった。なのでポータブルのDVDプレイヤーを持ち込んで映画を見ており、それでなら見られる状態だと知って、それなら、と毎回録画して持って来てくれていたのだ。頼んだもの以外にもあたしの好きそうなものを予想して録画してくれた。CMカットはもちろんあたしが便利に見られるようにチャプターも入れてくれてて、引退後は各家庭のハードディスクをダビング整理する仕事を始めたら?と起業の話をしたぐらい完璧な録画DVDだった。
※5 「セクシュアルなサービスはしなくていいよ。話だけしよう」というお客様は案外多いので、セックスワーカーは会話のプロでもある。「会話だけでお金が貰えたらラッキーだろう、俺はいいお客様だろう」と誤解してるお客様が多いが、お客様のファンタジーを壊さないようプロとして会話しているので全く楽じゃない。そして大半のお客様は時間ギリギリになって突然「やっぱりして貰おうかな」などとおっしゃるのだ。途中で気が変わったってよいのだが、「ことが終わる時間が終わりの時間じゃなく、ことが終わって身支度を終えて部屋を出る時間が終わる時間なのだよ」と言いたい。
【入院中観た映画からオススメをいくつか】
★「キューティブロンド2(ハッピーMAX)」
入院生活のつらさをただ我慢して乗り越えようとして卑屈になりかけていた時、ラスト近くのエルの「声をあげて!」というスピーチ場面に励まされた。
キューティブロンドは、1より2が断然いい。
1を観ないで2から観ても問題無いのでぜひ。
http://www.tsutaya.co.jp/works/10022004.html
★「blue」
10代の女子の恋愛をめぐる日本映画。
病室の窓からの眺めがビルだけなのでこの映画に出てくる普通の風景にとても惹きつけられた。
日常の風景が美しく見えるように撮ってある。
明るい映画ではないが、ある意味ハッピーエンドなので、入院中の心に負担がない。
弱っている時は、明るくて前向きなものも、悲しいものも観たくないものだ。
hhttp://www.amazon.co.jp/dp/B0000AZSU5
★「セックスアンドザシティー ドラマ版 全エピソード」
DVDを全巻買ってる友だちが貸してくれたので観た。
今更、と思ったけど、久しぶりに観たら、久しぶり加減がちょうどよくて面白く観られた。
シーズン4のミランダの母の葬儀のエピソードは、お見舞いに来てくれる友だちのありがたさが実感できている入院期間に観ると胸に染み込むようだった。
入院中のストレスを表す時「キャリーなら夜中に相手の部屋に押しかけてギャーギャー泣きわめくレベルよ!」などと言えるのも楽しい。
入院中の夜は長いので、ドラマのDVDをまとめて観るのはとてもいいから、セックスアンドザシティーでも韓流ドラマでもGleeでもLの世界でもいいから何か長いシリーズのを用意するといい。
消灯されちゃう長い夜に痛みと向き合わないためには、ポータブルDVD再生機で観る長いドラマシリーズが強い味方になる。
http://dvd.paramount.jp/satc/
★「めぐりあう時間たち」
ずっと観たいと思っていたのに、心を揺り動かされ過ぎそうな気がして観ていなかった映画。
今回の入院期間の終盤に1日3回以上、3日連続観た。
キャストコメンタリーと監督・原作者のコメンタリーも全部きっちり観た。
病人も出てるし、自殺場面もあるし、陰鬱な表情のアップも多いんだけど、なぜかその暗いものにのみこまれずに観られた。
「めぐりあう時間たち」は、入院前のあたしの日常ととても似ている。
退院したら戻る世界。
3人の女性たちの世界全てがあたしが戻る日常と深く繋がってる。
なぜ飽きずに何度も「めぐりあう時間たち」を観られるのか(この原稿を書きながらもBGMのように映している)分からない。
だって何度観ても課題が整理されるわけじゃないのだ。
ますます謎が深まるのに。
退院したら一度は誰か友だちと観たいと思う。
ヴァージニア・ウルフの読書会をするのもいいかもね、今更だけど。
http://www.amazon.co.jp/dp/B000BM6HM2
★「ダニエラという女」
最後にやっとこのコラムらしい映画。
これだけがセックスワーカーが主人公の映画だ。
「モンスター」とか「ソニー」とかも病室に持ってきて貰っていたが、観られたのはこれだけ。
というか観られてないな。
最初の30分ぐらいしか観られなかった。
最初の30分を観ただけでは、セックスワーカーが主人公のおとぎ話のような印象だった。
おとぎ話じゃなくアリスかな。
タイマーを持ったセックスワーカーに客が抜いて貰う話じゃなく、懐中時計を持ったうさぎをセックスワーカーが追っかけて穴に落っこちる話、みたいな。
ダニエラ役はモニカ・ベルッチ。
映画のキャッチコピーは「特技は愛されること」。
ゴージャスなおとぎ話なのか、あたしの知らない超高級娼婦の世界にはモニカ・ベルッチみたいな人がいて、これはリアルな映画なのかもね。
http://www.crest-inter.co.jp/daniela/index2.html