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トランスジェンダーやセックスワーカーの支援活動 大河りりぃ |
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はじめまして、大阪でトランスジェンダーのための性の健康問題に取り組んでいる、大河りりぃと言います。
性同一性障害×トランスジェンダー
トランスジェンダーの定義っていろいろあるのですが、現在は、「生まれて来た時に割り当てられた性別を越境する存在」という幅広い意味で用いられることが一般的で、私もこの意味で使っています。日本では、性同一性障害とトランスジェンダーを同じ意味だと思って使っている人がたくさんいるけれど、そもそも性別越境する存在を、「医療者視点からとらえた性同一性障害」と、「当事者視点からとらえたトランスジェンダー」とでは、精神障害の枠組みで捉えるか否かという点において、大きな違いがあります。
実は、性同一性障害は国際的に過去の言葉になりつつあるんです。2017年に、WHO(世界保健機関)による疾病分類が改訂予定ですが、その時に性同一性障害という言葉が削除されることがほぼ確定しています。そうなれば、いよいよ日本の医学界も、この言葉をガイドラインから削除しなければいけないと言われています。こうした動きの背景には、「トランスジェンダーを病理化するのはやめよう!」という、当事者中心の国際的な脱病理化運動があります。
私が初めて、この脱病理化の動きについて知ったのは、2011年に開催された、「GID(性同一性障害)学会」の大会に参加した時でした。それ以前から、「私が女装したりホルモン療法などを受けているのは、精神障害が原因ではない。」と思ってましたから、自分の性別を自分で決めたら病気にされるなんておかしいという意見にはもちろん賛同しますし、この先日本でも脱病理化の動きが広まっていけばいいなと考えています。
国際エイズ会議×日本エイズ学会
2014年の7月、メルボルン(オーストラリア)で開催された、第20回国際エイズ会議に参加しました。こちら(エイズ予防情報ネット/第20回国際エイズ会議@メルボルン)に詳しい報告が書いてあるので、ここでは少し感想を書きたいと思います。
国際エイズ会議に参加して驚いたことは、何といっても会議に参加しているトランスジェンダーやセックスワーカーの活動家の数とエネルギー。そして、それらに関する発表やイベントが、連日盛りだくさんだったことも驚きでした。この会議の雰囲気を言葉で伝えるのは難しいけれど、特にセックスワーカーの安全や健康の問題に関心がある人には是非参加して欲しい、そういう魅力的で刺激的な場所でした。ちなみに、エイズ予防財団(http://www.jfap.or.jp/)が毎回参加助成をしているので、興味がある人はチェックしてみてはいかがでしょう(^^)
ところで、海外に比べ日本はどうなっているのでしょうか。私は昨年、熊本で開催された第27回日本エイズ学会の集会に参加したのですが、そこではトランスジェンダーやセックスワーカーに関する発表がゼロでした。「ご冗談でしょ?」と思わずにはいられなかった。セックスワーカー関係と言えば、唯一SWASH(SexWork And SexualHealth)の小さなブースが会場に設置されているだけという状況でした。
たとえばですね、とりわけ地方のトランスジェンダーは地元で孤立しやすかったり、就業の機会から排除されやすい一方で、身体療法を望む場合には高額な費用が必要となります。そのため、一人で都市部に移り住んで来て、セックスワークをしているという人は珍しくありません。そこでは、HIVに感染しやすい肛門性交も行われるけれど、トランスジェンダーであることから、感染症予防や治療のための知識、あるいは医療へのアクセスが困難な現状がある。自分のことや仲間のこととして、こういう問題を長年目の当りにしてきた私にとって、日本最大のエイズに関する学会の集会で、トランスジェンダーやセックスワーカーに関する発表がゼロという事実はすごくショックでした。日本において、トランスジェンダーのセックスワーカーという存在、そしてその人たちが直面している、深刻な性の健康問題はあまりに見え難い。だから、そこを少しずつでも見えるようにしていくことが、私が第一に優先してやるべきことだと思っています。
自分たちが声をあげること
国際会議ではっとしたことは、自分たちが声をあげることがとても重要だと言う、シンプルなことです。
たとえば、セックスワーカーの支援活動をしているグループがあったとして、そこで注目すべき大事なことは、そのグループの活動の中心に誰がいるのかということ。そういう視点を持たないと、セックスワーカー支援のための資金がそのグループに入ったとしても、セックスワーカーのニーズに合致した活動に使われなかったり、セックスワーカーを救済すると言いながら、やっていることはセックスワーカーから仕事を奪っているだけだったりする、そういうことを見過ごしてしまうというわけです。こういう視点でみると、上述した昨年の日本エイズ学会の集会で、トランスジェンダーやセックスワーカーに関する発表がゼロだった背景も何となく見えてきます。
エイズの問題は医療の問題であるとともに、分かちがたく社会の問題でもある。そして社会の問題は、脆弱な立場に置かれている人々の声を聞くことから始まるので、トランスジェンダー、セックスワーカー、若者、ドラッグユーザー、陽性者、外国人、男性とセックスする男性といった人口層の声に耳を傾けることは欠かせないはずです。しかし、少なくともトランスジェンダーやセックスワーカーについては、その声を聞こうという姿勢がみじんも感じられない。そういう残念な状況を変えるためにも、自分たちが声をあげることはとても重要だと思います。
それでは、すでに字数制限をオーバーしてしまったのでこのへんで(^^;)最後まで読んで頂きどうもありがとうございました。さようなら。