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Sex Workerが観るSex Work映画〜その10「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」 Photo

「なぜ風俗の仕事を始めたのか?」
よく客に聞かれる質問だ。
風俗の仕事をしたことが無い女性たちにも聞かれたことがある。
風俗の仕事をしない女性と風俗の仕事をする女性の間には決定的な違いがあるはず、それは何か?
という疑問があるのだろうか?
「なんで風俗の仕事なんかするの?」という説教調の時もあるし、
「本当のあなたはこんな仕事をするような人じゃない」という褒めたい気持ちの空回り、と感じる時もある。
サービス業の習性で、自分の中の本当の答えを探り出す作業より質問者はどういう答えを望んでいるのかを考えることを優先してしまうので、統一性が無いバラバラの答えがあたしの中にたくさん作られて準備万端の状態で待ち構えているように思う。

でも「なぜ風俗の仕事を始めたのか」という質問について、説教や価値観の押しつけを全くからめずに同じ仕事をしている仲間と話すなら、自分に問うなら、それは面白い質問になるのかな、と思う。
たくさんの「客用の答え」の壁を通り抜けて、「なぜ風俗で働くことにしたのか」について待機室で同僚たちと話せたらよかったかもしれないと思う。
なぜ風俗業を始め、なぜ風俗業を辞めたか、元同僚たちと話すような気持ちで映画を観ることにした。

「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」はブラジルのセックスワーカーが書いた自伝の映画化で、10代の女性が娼婦になってから娼婦を辞めるまでが描かれている。
「世界で最も有名な娼婦」というサブタイトルのせいで、有名人の顧客が居る娼婦が顧客の名前を暴露して有名になったみたいな話なのかなとイメージしてしまってなかなか観る気になれなかったが、これを書いたブルーナというセックスワーカーが「世界で最も有名な娼婦」なのは、セックスワーカーブログが大人気にになったことから自伝を書きそれが25万部売れて15カ国語に翻訳されたからだ。
セレブ顧客のセックススキャンダルの暴露でもなく、セックスワーカーが書いたものが元になっていて、大昔の話じゃなくブログが当たり前にある現代の映画、がぜん興味が湧いた。

このコラムで以前紹介した「サティスファクション」でオーストラリアのセックスワーカーたちの労働環境が日本と全然違うことを書いたが、この映画で描かれているサンパウロのセックスワークの状況は日本と似ているように見えた。
仕事の内容や料金が一番詳しく描かれている最初に働く店は、1時間100レアルの店※1で取り分は店6:ワーカー4で雑費は無し(シーツをたくさん変えるなら洗濯代を貰う、と言われていたが)。
待機室待機で、住み込み可能で宿泊代は多分無料。
本番有りでゴム有り。フェラはゴム無しで口内発射有りだが飲み込まなくていい。
客は女の子を写真で選ぶんじゃなく空いてる女の子に部屋に並んで立ってもらってちょっと会話して選ぶ。
(この選び方は日本の女子風俗ではあまり無いが、ウリ専では珍しくない選び方だそうだ)
仕事量は最初の1週間で30人ということでこれはすごく多いな、付きっぱなしじゃないの、と思うが、後に人気嬢になる人の入店直後なんだから珍しくはないことだろうと思う。
いろんな客が来ることを「おかしな客がたくさん来たが私は客を差別せずみんなを満足させた」とエロ濃度低め湿度低めにテンポよく紹介するシーンがあるが、そこで紹介されている「おかしな客たち」は日本で働いている風俗嬢仲間と話す客の話とあんまり変わらないなと思えた。

ブルーナというのは自分で付けた源氏名で、この映画はブルーナがブルーナになる前、本名のラクエル時代から描かれている。
ブルーナはイケてないちょっと暗めの18歳の女子高生で、あまり裕福とは言えないが特別貧しくもない家庭で暮らしている。
家族とはあまり上手くいっているとは言えないが、特別ヒドい目に遭っているわけではない。
性的なことに特別興味が強いわけでもなく、興味が無いわけでもない。
これといった特徴の無い女の子だ。
好きになりかけた男の子の家に遊びに行った時に性的なことを強要されて逃げ帰ったらフェラチオまではしたことを言いふらされて学校に通うのがつらくなったことと、
親に気にかけて欲しくて親の大切にしてるアクセサリーを盗ってしらばっくれてしまったことと、
兄弟が意地悪なことが重なって、
これといった大きい理由なくラクエルは家出をし、街をさすらうことなく雑誌で見つけた風俗店に直行する。
後に「両親を愛しているから娼婦になった。傷つけるつもりじゃなく、怒りや羞恥心だとしても何か感じて欲しかった」と独白するシーンはあるが、その独白で説明できていることはごく一部だけで、全てではないように思う。
なぜセックスワーカーになるのか、はっきりとした答えはブルーナの中には無いように見えた。

最初の客についた時のブルーナの表情がすごくリアルで、映画の中で一番強い印象がある。
ブルーナは四つん這いでこちらを向いていて客はバックから挿入している。
スクリーンの半分以上がブルーナの顔というぐらいのアップで、客用の表情を作っていないからものすごい真顔だ。
前戯無しでいきなり挿入されたブルーナの表情を映す長めのシーンは、口から出ている声はあえぎ声であっても心から出ている声は「なにくそ」だったり「やりきるしかない」という時の顔、「性的サービスを提供する仕事」が上手く行かない日を乗り切る時に何度も経験した苦しさを思い出させる顔だ。
「ドッペルゲンガーを見た人は死ぬ」という言い伝えを思い出してぞっとする気持ちと、偶然懐かしい友だちに再会して嬉しくなる気持ちをごちゃ混ぜにしたような、なんとも言えない感情が湧く顔なのだ。
ブルーナは初めてセックスワークをした経験を「叫ぶこともなく、泣いて帰ることもなかった。でもこの瞬間かつてのラクエルは死んだ」と表現していて、それは聞き飽きているクサい表現だけど「かつてのラクエル」を特別尊いものと思って言っているわけではないのだと思うと、複雑で深い言葉に思える。

ブルーナはすぐにその店に来店する客の7割が指名する売れっ子になり※2、最初は若さと素人臭さと客が多いことから敬遠されていた同僚達にも認められてとけ込めるようになって行ったが、だんだんオーナーと険悪になっていき(待機の態度についてのオーナーの言葉の端々にとげのある説教やシーツ交換の頻度のクレームを聞いてもらえないことなど、誰でもが経験あるようなことばかりが原因)、店を辞めて独立することになる。
同僚として働いていたセックスワーカーでファッションセンスとプロデュース力のあるガブリエルという同年代の女の子と一緒に辞めて、ガブリエルに店のHPの管理や電話の対応をしてもらって、セックスワーカーとして働くのはブルーナ一人だけの店舗型風俗店「ブルーナサーファーガール」という店を作る。
最初に働いた店より高級感がある店舗、おしゃれで楽しい写真のHP、すてきな電話対応が整った上に「誰もが関心ある娼婦の生活を書く」ブログも始めて人気ブロガーにもなって、1時間300レアルという料金に上げてもブルーナの人気は衰えなかった。

店に所属しないで個人売春をしているセックスワーカーは日本にも多く居るけど、
プレイルームを備えた店舗を借りて自営しているセックスワーカーにはまだ会ったことが無い。
外国映画では時々見ることがあるが、それでもブルーナたちのようにヒモや用心棒の姿が見えない、女子だけできゃっきゃしたかんじで経営できている様子は見た事が無かった。
「ブルーナサーファーガール」という店は結局、もてはやされて「セレブ気取り」になったブルーナが、ガブリエルに「誰の稼ぎで食えているの?あんたが客の相手をしたらいい!」という亭主関白の頑固親父みたいなバカなことを言ってしまってガブリエルが辞めたことをきっかけにダメになってしまうのだが※3、上手く行ってる時の「ブルーナサーファーガール」のシーンはとても楽しい。
女子たちが才能を活かして働いて、それがうまく行って、みんながハッピーになっていってる、その場面を見ているとこういうことがあたしたちにもできるはずだなと思う。
ブルーナとガブリエルのようないいコンビがあちこちにどんどん生まれてくればいいのになあと思う。
この楽しいシーンが自伝を元にしているのだから、これは夢物語ではなく現実にできることなはずだ。

ガブリエルを失って仕事がうまく回らなくなっていき「ブルーナサーファーガール」はダメになる。
ブルーナはコカインを常用するようになってお金が無くなって街娼になり、その後1回20レアルの店で働く。
20レアルの店で売れっ子になるが、行列する客をどんどんさばいていくような過酷な仕事をコカイン常用しながらこなす生活でブルーナは仕事中に意識を失い死にかけてしまう。

たいていのセックスワーク映画はドラマティックだ。
悲劇パターンならそこでブルーナは死んでしまうんだろうし、
人情話ならブルーナは病院にかけつけた元客のプロポーズを受けて結婚してセックスワークを引退するんだろう。
でもこれは自伝を元にした映画だからブルーナは死なないし、結婚しない。
元客のプロポーズを「自立したくて家を出たのだから自力で生きる」と断ってまたセックスワークを始める。
ぼろぼろの状態の時に病院にかけつけてくれた憎からず思っている人からの援助の申し出を断り自立を目指す、というのはかっこよすぎて誰にでもできることではないが、ブルーナはそれができる人だったようだ。

「いつかこの生活を辞めて結婚し子どもも欲しい。そのためには貯金しないといけない。あと半年働けば800人相手したことになる。引退する時は始めた時と同じように新たな気持ちで始めたい」というブルーナの言葉があり、部屋のドアを開けたブルーナが客を出迎えて微笑む姿で映画は終わる。
後日談として、その後ブルーナはセックスワークを辞め自伝を書き、今は元客と一緒に暮らしていることが文字で流れる。

「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」は、少女が人身売買で無理矢理仕事をさせられた映画でもなく、セックスワーカーが改心して「悪い仕事」を辞める映画でもなく、仕事を続けたセックスワーカーがむごたらしく殺される映画でもない。
この映画は「なんでこの仕事を始めたのか」「この仕事をいつまで続けたいのか」というようなセックスワーカー同士ならお互いそんな話はいちいちしない話をする疑似体験できるような映画だと思う。
ブルーナの物語を通して、自分の奥底にある形を成さない気持ちに輪郭が生まれるように思えた。

「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」は観た後気持ちがどんよりするような映画では無いので、これ1本だけ観てもいいと思うが、何かを一緒に観るなら「クライアント・リスト ザ・ムービー※4」をお薦めする。

「クライアント・リスト ザ・ムービー」は、家のローンの返済のために家族に内緒で性的サービスがあるマッサージ店で働いた子どものいる人妻が警察の摘発が入って仕事を辞める話だ。
「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」はセックスワーカーが書いた自伝が元になっているが、「クライアントリスト」は実際の事件を元にした映画というだけでセックスワーカーが書いたものではない。
2つの作品の色合いはかなり違うが、「クライアント・リスト ザ・ムービー」もいやなかんじの映画ではない。
唯一摘発前から仕事を明かしていた非セックスワーカーの友人との絆の場面はすばらしいし、ハッピーエンドなので「警察に摘発されて下着姿で連行されるとこをニュース番組で生中継されて旦那やご近所に仕事がバレる」という悪夢の映画化のわりに楽しく観られる。
「クライアント・リスト ザ・ムービー」の主演はジェニファー・ラブ・ヒューイットで、仕事着にしてるランジェリーなどは高そうだしすてきなので※5そこも見所。

「一人の女性がセックスワークを始めてから辞めるまで」を実話を元に描いた映画2本が、2本ともハッピーエンドで、嘘くさいものでもないというのはいいものだなあと思う。
自分の心の深いところにあるものと向き合ってしまうかもしれない映画を観るなんてちょっとおっくうに思えるけど、観てもいいかなと思うタイミングがあったら思い出して観てみてください。


※1 100レアルは日本円で5千円ぐらいだが、ブラジルの平均月収は1000レアルぐらいらしいので、ブラジルの100レアルの風俗店というのは日本の風俗店で言うなら1時間1万5千円から2万円ぐらいの店、という感覚かなと思う。
※2 最初の週30人の客を取って、ブルーナは「普通の女(非セックスワーカー女性)の一生分よりたくさんの男とセックスした。楽では無いが兄の二倍の稼ぎがあった。大卒の女性より高額だ」と言っている。この感覚は国の違いを越えて近いなあと思った。「風俗嬢はぼろ儲けという世間のイメージほど稼げてはいないけど、このぐらいは」というかんじ。稼ぎは人それぞれだから一般的な感覚です、と言いきれるものでもないとは思うけど。
※3 口論になったきっかけは、結婚前夜パーティーの仕事を引き受けて8人相手に仕事した翌日だから眠くて仕事をしたくないと言うブルーナに、ガブリエルが「もう4回もキャンセルした客だから断れない」と仕事をしてもらおうとしたことだった。衝突してもしょうがないですわね。しかし「誰のおかげで食えているのか?」とキレるのはおかしい。
※4 「クライアント・リスト ザ・ムービー」は連続ドラマの映画化らしいが、あたしはドラマ版は観ていない。映画版で店の営業の工夫のいろいろがさらっと描かれていてそこがとても興味深かったのでドラマ版でさらに詳しく描かれているならぜひ観てみたいなあと思う。さらっと描かれていた中で一番なるほどなあと思った営業の工夫は、初めての客は必ずマジックミラーのある個室に通して、安全な客かどうか他のワーカーや経営者が見守るというのだった。他のワーカーの仕事ぶりも見られるし、ワーカーがちゃんと働いているかという経営者の監視にならないならとてもいい工夫だと思う。
※5 すてきと言っても「サンパウロ…」を観た後だからすっごくすてきに見えていただけかもしれない。「サンパウロ…」はもう全然仕事ファッションの参考にならない、と思う、特に前半は。「クライアント…」もジェニファーが着たらなんだってステキに見えるでしょうよ、っていうか、よくジェニファーのような胸がものすごく大きくてウエストがものすごく細い人に合う衣装を見つけましたね、衣装さん乙、とべきなのかもしれないが。


「サンパウロ、世界で最も有名な娼婦」ttp://www.kinenote.com/main/public/cinema/detail.aspx?cinema_id=54871h
「クライアント・リスト ザ・ムービー」http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=341984

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職種
売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。