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Sex Workerが観るSex Work映画~その11「そこのみにて光輝く」 |
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「そこのみにて光輝く」は大好きな女優がセックスワーカー役をやるということで劇場公開時から気になっていた映画だ。
DVDレンタルが始まった頃に、あたしが元セックスワーカーだと知っている映画好きの友人にも観ることを勧められた。
だがこういう映画はいい映画だからってすぐ観られるものではない。
タイミングが難しいのだ。
そんなかんじでタイトルだけは時々思い出しながら観ないままでいた「そこのみにて光輝く」を、風が気持ちいいこの季節にやっと観ることができた。
劇場公開から1年かかってしまった。
主人公の千夏が働いている店は「ちょんの間」と言われる形態の店だ。
飛田のような往来に顔見せるタイプのちょんの間ではなく、1階がスナックになっていて2階に客を上げてするタイプのちょんの間。
映画の舞台になっている北海道にはまだこういう形態の店が残っているのか、そしてこんなに説明無しで描いていて観る人に伝わるものなのか?とちょっと驚いた。
関西にはそういう店舗が少しだけ並んでいるエリアがあり、そこは見たことがある。
あたしが見たことがある関西のスナック形式のちょんの間の店があるあたりには「○○歓楽街」と書いてあって、そこは普通の商店街の続きの路地にあった。
間口がものすごく狭い2階建ての店が数軒ぴたっと並んでいて、どの店もピンクの照明で、この数軒はおそらく風俗なんだろうと分かるようになっていた。
千夏が働いているスナック形式のちょんの間は飲み屋街の中にあって、外観はちゃんと映らないので、どう見分けがつくのか分からなかった。
よそ者には普通のスナックにしか見えないが、地元の男達には分かっていてうまくやれているということなのかもしれない。
千夏の仕事は、そのスナック形式のちょんの間でのセックスワークと、ホテル出張形式のセックスワークと、イカの塩辛工場でイカをさばくアルバイトの3つだ。
千夏には地域の有力者の愛人(妻子持ち)からの収入もある。
愛人というよりセフレ、セフレというより個人売春の相手、というほうが近いのかもしれないが、個人売春の客なら切れるが情と恩がからんでややこしくなっているので愛人というほうがいいように思う。
千夏はその4つからの収入で両親と弟との4人の生活をまかなっている。
父親は脳梗塞の後遺症で寝たきり、母親は夫の介護、弟は傷害事件を起こして保護観察中で週3回造園会社(千夏の愛人が経営する会社だ)でアルバイトをしているだけだ。
弟が週3回しか働けていないのは仕事がそれしか無いからだし、千夏のイカの塩辛工場の仕事も週3回しか無い。
不景気な街に住む運が無い家族の生活を千夏のセックスワークの稼ぎが支えているのだ。
支出が多いのか収入が満足にないのか、千夏たちが住んでいる家はバラックのような外観だ。
家族たち(愛人も)は千夏がセックスワークをしているのは知っている。
知っているが、そんな仕事辞めろということも無いし、そこまでして養ってくれていると特別ありがたがることもない
人懐っこい弟の明るいおしゃべりと、母と千夏の無表情と、ふすまの向こうから聞こえる寝たきりの父のうめき声が混じって上手い具合に淡々としている、そんな暮らしに見える。
そういう千夏が男と出会う。
男は千夏の仕事を偶然知って、即断で「そんな仕事辞めてくれ」と言う。
そこから始まる物語が「そこのみにて光輝く」だ。
「あんた何様?一回やったぐらいで」
「わたし稼がなきゃなんないの。分かるよね」
「あんたあたしと結婚でもしたいの?馬鹿だと思われるよ」
千夏は最初そんなふうに答える。
次に男がさらに真剣に仕事を辞めてくれと言った時の千夏の答えはこうだ。
「わたしだって昔ちゃんと働いたことがある。運送会社の事務で。だけど一ヶ月ももたなかった。分からないんだよね、あたしには。毎日会社行って仕事終わりに飲みに行って。居るとこ無いんだよね、あたしには。そういうの分からないでしょ」
この台詞でぐっとつかまれた。
この言葉が語る状況と心情があたしには分かるからだ。
この微妙なかんじ、このややこしいかんじ、を映画で感じることができるとは思わなかった。
あたしには分かる。
しかし千夏には分かってくれる人は必要なくて、分からないままに「でも辞めてくれ」と言う人が必要なのだなあと思った。
お金が要る→仕事をしなければならない→必要な分だけ稼げる仕事が無い→しょうがない
と思えるタイプの人と
お金が要る→仕事をしなければならない→必要な分だけ稼げる仕事が無い→今まで出来ないと思ってたことをしてでもなんとかしなきゃと思うタイプの人がいる。
千夏はなんとかしてしまうタイプの人だ。
家で介護している脳梗塞の父が身体は麻痺しているが性欲が強く残って自慰行為介助を大声でせがむ→性欲を抑える薬は副作用があって脳が萎縮する可能性がある→家で介護せざるを得ず介護する母が疲れ切って夫婦仲がこじれ、母が父を虐待(ネグレクト)するようになる。
そういう状況も千夏は「母の代わりに自分が自慰行為の介助をする」というやり方でなんとかする。
あたしがやるから、と母を散歩に出す。
母も千夏も無表情だ*1。
家族の間に思いやりや愛情や常識が無いわけではない。
千夏にずっと全部押し付けてきたわけでもない。
家族の歴史の中でしんどい役割を交代しながらやってきていて、今は千夏がしんどい役割を引き受けているという印象だった。
「無理!という気持ち」と「なんとかしなきゃ!という気持ち」とどちらかを「心の声」「ありのままの私」と決めてそれを尊重するなんてできないことだ。
どちらもが心の声であり、どちらに踏み出すかは気質とか癖のようなものなのだろうと思う。
だから「自己決定の尊重」ってのはややこしい。
セックスワークをしていることを親兄弟に隠さなくていい状況(家族は千夏の仕事を蔑んだりはしてない)。
家族の生活を支えられるほど稼げている状況。
それはいい状況だと言えると思う。
でもなぜ気持ちが苦しいのか?
社会がセックスワーカーという職業を差別してるから?それだけだろうか?
この気持ちの苦しさを抱えずに働けているセックスワーカーはいるんだろうか?
客に「なぜこんな仕事をしているのか」と尋ねられてその場に合った答えを返すつもりがちょっと外れた時に「割り切ってるんだね」と言われることってあるでしょう?
あたしはそういう時にこの気持ちの苦しさが大きくなるように感じていた。
「そこのみにて光輝く」は、しんどくなり過ぎることなくあの気持ちの苦しさを思い出させてくれる映画だ。
しんどそうだから避けておく映画にしておくのはもったいない。
ハッピーエンドだし、定食屋のテーブル席で綾野剛(千夏に仕事を辞めろという男達夫の役)にまっすぐ見つめられて「店に辞めるって言いに行こう」と言われ、菅田将暉(千夏の弟役)にヒューヒューはやし立てられて「これからは俺と達夫で稼ぐから!」と言われる池脇千鶴(千夏役)の気分になれるという映画体験は、いい娯楽になると思う*2。
娯楽大作でしかもちょっと考えさせられることもある映画ってことです。
オススメ。
(千鶴と愛人の場面はひどい暴力シーンなので、そこはかなりしんどいです。そこだけ気をつけて観てください)
いつもはレンタル屋で一緒に借りるといいかんじな映画をセットで紹介することにしてるんだけど、今回は気になってたけどずっと観られなかった映画をこの際だからもう一本観たという繋がりで、全くお薦めではない映画を紹介する。
その映画は「子宮に沈める」という映画で、風俗で働いていたシングルマザーが子どもを置き去りにして部屋に戻らず餓死させた事件を元にした映画だ。
「子宮に沈める」には風俗で働く描写は全くなかった。
離婚した主人公に風俗の仕事を勧める風俗で働く友人の人物像をとても嫌なかんじで描くとか、風俗の仕事を始めた主人公がどんどん派手な外見になって家事がおろそかになっていくとか、そういう描写があるだけだ。
仕事の場面は全くないが生理の描写はあって、それも生理休暇の連休をどう過ごしていたかみたいな日常的なことではなく、気持ち悪いイメージシーンみたいな描写だった*3。
生理の描写と子宮やへその緒のイメージがホラーっぽくて、男って「性行為の時接点がある部分以外の女の性」ってものをこんなふうに恐れてるんだな~バッカミタイと思って笑えた。
笑いも大切だけど、笑うために育児放棄された子どもが飢えていくしんどい映像を2時間観るのは時間の無駄だなとあたしは思った。
男って生き物を理解するためにこれを観るっていうのも偏りすぎて役に立たないと思う。
「(実話が元になったお話だから)結局死ぬと分かっている子どもが飢えの中でサバイブする様子を見るのがたまらなく好き」という人にはお薦め。
映画の3分の2ぐらいがそういう場面なので。
*1 障害者専門の派遣風俗を描いた映画「暗闇から手をのばせ」というのがあって、それは何ヶ月前にがんばって観たんだけど、感想が書きにくい映画でしたわ~。ややこしい気持ちになりました。いつか紹介します。
*2 千夏が達夫の部屋に初めて行って窓の外に向かって大声で叫ぶ場面が一番好きだった。達夫の目がすごくよかった。仕事を知ったら即辞めろしか言わない男なのに好感を持ってしまうぐらいいい場面だった。単に綾野剛の目が魅力的なだけかもしれないけど。
*3 経血を見せるタイミングが脅かすタイミングだし、編みかけの赤いマフラーの糸の端を編み針につけたまま膣につっこむ、マフラーは子どもの死体に巻かれている、みたいなシーンはあるし…。何かを象徴させたいんだろうけど伝わらない!
「そこのみにて光輝く」→http://hikarikagayaku.jp/
「子宮に沈める」→http://sunkintothewomb.paranoidkitchen.com/