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Sex Workerが観るSex Work映画〜その12「The Poker House(邦題:早熟のアイオワ)」 Photo

「早熟のアイオワ」というお色気学園コメディー映画みたいな残念な邦題が付いているこの映画の主人公はアグネスという14歳の少女だ。
最初のシーンは早朝の自宅で、アグネスが居間に居る見知らぬ半裸の男をうんざりした様子で追い出す場面だ。
ごねる男を「妹がもうすぐ起きてくる時間だから5分で出て行って」とアグネスは追い立てる。
男はセックスワーカーである母親の泊まりの客。
母親は自分とアグネスたち三姉妹が住んでいる家を仕事場としても使っている。
母一人が働いているわけではなく他にも数人のセックスワーカーが居る娼館でもあり毎夜賭場にもなっているこのポーカーハウスという場所は、子どもにはキツい環境だ。
母親の恋人はヒモだ。
母親はアグネスたちの父親の暴力から逃げるために子どもたちを連れて家を出て、ヒモと出会い、ポーカーハウスの娼婦になった。

映画が始まってすぐ、母親はアグネスたちを世話をしたり守ったりしておらずアグネスが母親の代わりをしているのだなと分かる。
妹たちは新聞配達や空き瓶集めをして稼いだり、うっすら迷惑がっている大人の目をかわしながら、友だちの家に居続けて泊まったり、バーでジュースを飲み続けたり、耳栓をしたりしてキツい環境をやり過ごしている。

起きてきた母親は半裸で酒の酔いが抜けていないし、ドラッグもやっている。
新聞配達に行く妹を送り出し家を片付け、学校の勉強をしているアグネスに母親がかける言葉はこうだ。
「体を売るしかないんだから、そろそろ気持ちを決めなさい。最初ぐらいいい客をあてがってあげるわ。いつまでも子どもじゃいられないのよ。ただ飯を食わせる気はないわ。少しは家計に貢献しなさい」
アグネスたちはバイトを掛け持ちして稼いでいておそらく母親は子どもの食事や学校に必要なお金は一切払っていないし、アグネスは一般の家事だけでなく母親がわりもポーカーハウスの清掃もしているのだから十分家に貢献している。
母親の稼ぎはヒモとトラッグに流れていっているだけだ。
母親の言うことはおかしいというアグネスの言葉は母親には全く響かず、小突き回されてさらに傷つく捨て台詞を言われるだけだ。

アグネスは妹思いの働き者で、勉強が好きで、バスケット部のスター選手で、バイト先の仲間や友だちにも愛されていて、文章を書く才能もある。
でも、アグネスの素晴らしさを認めずアグネスに「おまえは価値の無い人間だ」と言い続ける母親から離れられない。

セックスワーカーの誰もがアグネスのような環境で育つわけじゃない。
でも多くのセックスワーカーが「自分の価値を信じられず自分を罵る言葉ばかりを聞いてしまう」というアグネスと同じ環境に陥ることがある。

自分の仕事を言えず曖昧にごまかす時。
満足に稼げる仕事が他に見つからなくて仕方なくセックスワークを始める時。
「割り切って」働いても世間が思うほど稼げてないと思う日。
ボウズで帰る日。
若い時だけしかできない仕事だと焦る気持ちになる日。
ルールを無視する客に怖い目に遭わされた日。
惨めな気持ちを味わされた日。
ナンバーワンになっても幸せを感じられない時。
常連客や同僚に裏切られた日。

「あたしはダメ人間だ」という自分の声が聞こえ続ける。
そんな時は自分の価値や力をまともに認めてやることができない。
自分は価値の無い人間なんだという自分の声を止めることも耳をふさぐこともできないのだ。

アグネスが母親と座っている朝のポーカーハウスのソファと同じ場所にあたしたちも座っているようなものだ。

アグネスは母親の罵る声を聞くことを止め、ポーカーハウスから出ることができる。
この映画は監督の経験を元に作られた映画だから、映画の上のおとぎ話じゃない。
だからアグネスがどうやって抜け出すことができたのか知りたくて映画を何度も見返した。

「自分は何の価値もない人間で惨めな場所が似合いなんだ」という考えから抜け出させてくれるのは、結局人との繋がりなのではないか?と思う。
正しい判断力を奪われているのだから「聞こえてくる罵りの言葉は間違っている、自分は無価値ではない」という所まで自分独りでたどり着くのは無理だ。
アグネスには、14歳の少女を勝手な都合で大人扱いしたり子ども扱いしたりすることなく常に人として対等に向き合ってくれる人たちとの繋がりがある。
妹たちや友人たちや大人たち(カタギの大人や教師だけでなくポーカーハウスで働くセックスワーカーや客も含まれている)といういろんな年齢や背景の人たちとの交流が、アグネスを「どうせ自分は無価値だと思い込んでしまうこと」から遠ざけてくれている。
それがアグネスと妹たちの日常の描写の中に繰り返し映し出されている。

人との繋がりを断たないというのは容易いことではないが、人間不信になって人を遠ざけることでは自分を守ることはできない。
人との繋がりを持ち続けることが自分の正気を保つことに有効なのだろうと思う。


ラストシーンがとても印象的だ。
アグネスが妹2人を車に乗せて走り出し、車のカセットで「Ain't No Mountain High Enough」をかけ妹たちとノリノリで歌い始めるのだが、カセットがひっかかって曲が止まってしまいウキウキした表情がさっとなくなり、止めてしまった車は重い空気になってしまう。
が、カセットはまた回り始め3人の少女は何事も無かったかのようにまたウキウキと歌い始め車も走り出す。

そのちょっとコミカルなシーンは「自分は無価値で生きていく意味なんてないと思えて死んでしまいたいと思った日」の自分が偏って悪く受け止めていたことから偏りを取り去ってくれるように思えた。
「○○という悪いことが起こった→自分が無価値だからだ→だから自分は何をやってもダメだ」というぐるぐるを断ち切って、ただ「○○という出来事が起こった」という事実だけにしてくれた。

この映画は主演のジェニファー・ローレンスが2012年にオスカーを受賞したことで彼女の過去の主演作として話題になりレンタル屋でも扱うようになった映画だ。
地味で暗い映画なんじゃないかと敬遠されてしまうかもしれないが、希望がある映画だし、レイプ場面がある(※1)のはしんどいが描写がひど過ぎないので、自尊感情を高く保つのが難しいいろいろな人にお薦めしたい映画だ。


「Sex Workerが観るSex Work映画」では、一緒に観るとよりいいかんじな映画を2本紹介するようにしているので、今回のもう一本は「ソニー」をお薦めする。

「ソニー」の主人公ソニーは、アグネスと全く同じセックスワーカーである母親に娼館で育てられた子どもで、アグネスとの違いは男であることとセックスワーカーになったことだ。

どちらも支配する母から離れる話だが、主人公の年齢や離れる経緯が違うので、2作品観るとさらに力を得られると思う。

※1 アグネスは母親のヒモに恋愛感情を持つ。彼が自分を愛してくれていると思ってキスする。挿入されそうになって拒むが力ずくでされてしまう。恋愛感情を持ち、キスは拒まなかったとしても、望まない性行為をされ たらそれはレイプなのだ、というあたり前のことがちゃんと描かれているということがとてもすばらしいと思う。


「The Poker House(邦題:早熟のアイオワ)」 http://eiga.com/movie/78037/
「Ain't No Mountain High Enough(ダイアナ・ロス)」 http://mettapops.blog.fc2.com/blog-entry-1398.html?sp
「ソニー」 http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=3459

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売り専です…お客さんも売る側のスタッフも男性の風俗です
自己紹介
大女優とも呼ばれています。気づいたらもうすぐ40歳。なんとか現役にしがみついています。
好きなものは、コーラ!!
皆さまの中には聞いたことがない仕事かもしれません。いろいろ聞いてくださると嬉しいです!!
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デリヘル嬢。
ここでは経験を元にしたフィクションを書いています。
すきな遊びは接客中にお客さんの目を盗んで白目になること。
苦手な仕事は自動回転ドアのホテル(なんか緊張するから)。
goodnight, sweetie http://goodnightsweetie.net/
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元風俗嬢 シングルマザー
風俗の仕事はだいたい10年ぐらいやりました。今は会社員です。
セックスワーカーとセクシュアルマイノリティー女性が
ちらっとでも登場する映画は観るようにしています。
オススメ映画があったらぜひ教えてください。
あたしはレズビアンだと思われてもいいのよ http://d.hatena.ne.jp/maki-ryu/
セックスワーカー自助グループ「SWEETLY」twitter https://twitter.com/SweetlyCafe
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庄司優美花
非本番系風俗中心に、都内で兼業風俗嬢を続けてます。仕事用のお上品な服装とヘアメイクに身を包みながら、こっそりとヘビメタやパンクを聴いてます。気性は荒いです。箱時代、お客とケンカして泣かせたことがあります。