HOME > 風俗嬢コラム Worker's Live!! > Sex Workerが観るSex Work映画〜その13「メゾン ある娼館の記憶」
Sex Workerが観るSex Work映画〜その13「メゾン ある娼館の記憶」 |
---|
「メゾンある娼館の記憶」は最後まで観通すのに数年かかってしまった映画だ。
気持ち悪かったり怖かったりして、途中止めしてしまう場面が多すぎて観通せなかったのだ。
しんどい場面が多くて気持ちを半分よそに逃がしながら観た時間もあって、今回この原稿を書くために観直したら観損ねてたシーンをいくつか発見した、というぐらいの見にくさ。
どう観にくいかというと、回想だか夢だかはっきりさせない描写で何度も、客からぱかっと開くプロポーズ的な箱に入った宝石を渡されたり、客の精液が身体を満たして娼婦の目から白い涙になって流れたり、「イヤかどうかは金を払った私が決める」と言う客に拘束された上で「口裂け女」のような切り裂き方で顔を切られたりする場面をが出てくるのだ。
最初のシーンからなので、最初の10分ぐらいが特になかなか乗り切れない。
それでもこんな映画を紹介するのは、観てよかった場面もいくつかあったからだ。
この映画の見所だけを書き出して伝えられたら、通して観るしんどさを省いてセックスワーカー同士で良いところだけを共有できて便利なんじゃないかなと思い、今回頑張ってみた。
この映画にはすごくいいシーンがあるのでそれを共有したいのだ。
この映画はフランスのアポロニドという高級店の1899〜1900年の出来事を描いている。
「吉原炎上」の主人公が遊女になった年が1908年という設定らしいので、ほぼ同じ時代、だいたい100年ぐらい前のフランスの高級店のシステムや労働環境がぼんやりと分かる。
入店希望の16歳のポーリーンをマダムが面接する場面がある。
マダムは許可証を持っているかどうかと年齢と処女かどうかを確認し、全裸を見て、会話や礼儀や読み書きを習ったかを聞いていた。
処女ではないと答えた彼女に、特別な指導は必要ないと判断したのか「仕事はやりながら覚えて」と命じていた。
客が払う料金やセックスワーカーの取り分ははっきり描かれていないが、ワーカーたちが「殺菌ソープが高くて買えない」「罰金(シーツを汚したり客のクレームがあると罰金を取られていた)や、仕事に必要なドレス代香水代で借金が減らない」と語る場面や、一晩に3人しか客がつかなかったワーカーの「この稼ぎでは一生ここから出られない」という台詞もあり、稼げていたとしても経費が高すぎたり搾取されたりして手元には残らない仕事のように思える*1。
労働時間は長く、住環境は酷い。
ワーカーたちは娼館に住み込んでおり、マダムか客の同伴での外出か客引きでしか外出は許されていない。
自由に使える個室は無く、客が帰った後にプレイルームのベッドで雑魚寝で寝るしかない。
梅毒になって働けなくなったワーカーについて、マダムが「元得意客が金を払っているからここに置いておける」と話す場面から考えると、こんな住環境でも部屋代や食事代を取られているようだ。
性病の対策もいい加減で、新人に先輩ワーカーが教えることは「客のモノをよく見て怪しいところがあれば寝ない。済んだ後は洗ってコロンでこすりなさい。ピリピリするけど大丈夫」程度のことだ。
マダムがワーカーに「安売春宿に移ってノミがいるベッドで客をとるのか?安売春宿客に性病をうつされるよ」という場面があるが、高級店アポロニドはワーカーに医者の検査を受けさせていていて部屋が清潔だというだけで、梅毒を防げるわけではない。
マダムに性病を脅しのように言われたワーカーも「性病は似合いの病気だ。性病になって休めるならその方がいい。もう12年も働いているんだから」とやけになって答えていた。
ここまで読んで、この映画を観る気持ちは全然湧いてこないと思う。
「吉原炎上」的な、衣装とセットの豪華さと「娼婦の哀れさ」を一緒に鑑賞していい気分になれる人にならオススメできるけど〜というだけのことだ。
でもあたしが好きな笑顔が印象的なシーンが3つあるので、観られたらそこだけ観てほしい。
ワーカーたちがマダムとマダムの子と一緒にピクニックに行き、川辺で馴染み客の話をしながらみんなできゃっきゃと笑う場面と、
梅毒になったワーカーに顔に傷があるワーカーが「クソね、この仕事」と声をかけ、「一発でオシマイよ」と陽気に答えて一緒に爆笑した後徐々に真顔になる場面と、
ワーカーの顔を「口裂け女」のように切り裂いた客に復讐するワーカーたちの横顔が暗い廊下に並ぶ場面だ。
特に3つ目の場面が素晴らしい。
暗い廊下で身を寄せて閉じ込めたドアの向こうの客の様子をひっそりと聞いているワーカーたちの頬には口紅で被害を受けたワーカーと同じ傷が描かれていて、その傷が横顔を笑顔に見せているのだ。
残虐な描写も悲鳴もない静かな場面だが、ワーカーたちの横顔に斜めに描かれた口紅の線が戦闘メイクのようにも祭りのメイクにも見えて素晴らしかった。
ワーカーたちが泣くシーンのほとんどは他の「哀れな娼婦」を描いた映画と同じようなものばかりだが、一つだけとてもいい場面がある。
常連客がアポロニドのワーカーたちの頭の小ささを可愛いと愛でた後「娼婦の頭の大きさについて面白い論文がある」と言い出して、ワーカーがその論文を借りて一人で読む場面だ。
その論文のタイトルは「娼婦及び窃盗犯の身体的特徴」というもので、「娼婦は男性犯罪者と同じだ。脳を観察したところ平均より小さい。これは頭蓋骨の小ささに起因する。結果彼らの頭脳には著しい劣性が認められる。知性及び精神面で弱くても無理はないと言えよう。彼らの中には無気力無感覚状態が顕著で、うつけと紙一重の娼婦たちも存在する」と書いてある部分を彼女は読む。
彼女の泣き顔の後画面は4分割されて、論文を読みながら泣いているワーカーと他の部屋でそれぞれ客をとって働いている最中のワーカーたち3人が同時に見える。
映画では描かれていないことだが、この4人のワーカーたちが次に一緒にピクニックに出かけたらきっとこの論文をネタに笑いあうだろうと思う。
「あたしたちがイクふりをしないで無表情のままだったのがショックだったんじゃない?」「ムキリョクムカンカクジョウタイがケンチョである〜!」キャハハ〜、みたいに。
この映画はマダムの「娼館は風前の灯。悲しいことだが愛は道端で買う時代になるわ」というセンチな台詞と、雑然とした道端で客の車から疲れた表情で降りてくる安っぽい服を着た現代の街娼を映して終わる。
100年前には「古き良き優美な売春時代」があったが、現代はロマンチックなものは消え去って殺伐としたものしかない、みたいな。
本当につまらない演出だ。
ワカッテナイ。
昔も今も「愛」は売り買いできないし、「古き良き時代」なんて元々無くて、いつの時代もセックスワーカーは厳しい現実を生きているのだ。
そしてロマンチックは消えさらずあたしたちの心にいつもある。
厳しい現実にあたしたちの心を蝕ませないために、あたしたちは自分の心を守る術をたくさん持っておく必要がある。
その術の中に仲間と笑いあうことを入れておくといい。
注意深く観るとそうとても大切なことが伝わる映画になっているのに残念だなあと思う。
しんどい映画だけ薦めるのは酷なので、お正月に観た上出来なドラマのことも書いておく。
「吉原裏同心」というNHKのドラマで、オンデマンドで視聴することができるものだ。
1780年代の吉原が舞台になっていて見飽きた感じの花魁が出る時代劇なんだけど、人妻と駆け落ちした武士が吉原の用心棒になり妻も遊女たちに読み書きを教える仕事をしながら遊女たちと信頼関係ができる話で、遊女たちの描写が全くしんどくなかった。
お正月から気持ちがしんどくならなくて本当に良かった。
暇な時間に気軽に観られるいいドラマだから、2月の閑散期にオススメ。
次回は最近はまっているNetflixのことを紹介したいなあと思ってます。
Netflixで「イギリスの売春宿ドキュメンタリー」とかを簡単に観られるようになってすっかりツタヤと縁がなくなっている最近のあたしです。
もし2月が予想以上に暇だったらNetflixがオススメですよ。
ではまた。
*1 マダムの台詞の中に今は経営者だが昔はアポロニドでセックスワーカーとして働いていたのか?と受け取れるような台詞がある。だとしたら、マダムはワーカーの取り分が少なく罰金の多いアポロニドで貯金ができた奇跡のワーカーなのか?それか良いダンナが付いて経営者側になれたのか?もしかして経営者がこのマダムになってからワーカーの取り分が減って罰金がきつくなったのか?
「メゾン ある娼館の記憶」http://www.moviecollection.jp/movie/detail.html?p=2443
「吉原炎上」http://movie.walkerplus.com/mv17652/
「吉原裏同心」https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201400118500000/
「Sex:My British Job」http://www.imdb.com/title/tt3196598/?ref_=fn_al_tt_1