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Sex Workerが観るSex Work映画~その14『マイ・ファニー・レディ』 |
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「マイ・ファニー・レディ」はセックスワーカーが主人公のおとぎ話だ。
セックスワーカーが主人公のおとぎ話といえば「プリティウーマン」か「ティファニーで朝食を」だが、「マイ・ファニー・レディ」は「プリティウーマン」みたいにバカバカしくないし、「ティファニーで朝食を」みたいにほんのり寂しくならない映画だ。
笑って観られて、観終わると心がちょっと整っているというとてもいい映画。
セックスワークを扱った映画でこういう仕上がりになっているものはなかなか無いので、この映画を紹介できてとても嬉しい。
主人公のイジーは成功している若い女優で、元セックスワーカー。
セックスワークをする中で出会った人がきっかけで女優になったことを包み隠さず雑誌のインタビューに答えるという形で映画が進んでいく。
薄々バレてる過去をセックスワークに偏見がある女性インタビュアーに思い切って告白するというような緊張感はなく、イジーはチャーミングに自然に過去の出来事を語っていく。
イジーは元セックスワーカーの女性が経営しているエスコートサービスを介してホテルの部屋に派遣されるという形で仕事をするセックスワーカーで、自宅待機で送迎は無し、サービス時間は1時間~で、1時間いくらなのかは2時間分を前払いする客のお札がちらっと映るだけなのでよく分からなかった。
イジーはある日風変わりな客アーノルドに出会う。
アーノルドはセックスした後「君がこの仕事をすぐ辞めて今後好きな人としかセックスしないと誓うなら今すぐ3万ドルあげる」と言い、本当に下心なく3万ドルくれる。
出会ったばかりのセックスワーカーに「セックスワークを辞めろ」って言う客はいくらでも居て、そんな客に当たったことが無いセックスワーカーはおそらく一人も居ないってぐらいだと思うけど、辞めたいと思いながら働いてるゆきずりのセックスワーカーの辞められない理由を解決してくれようとする客は居ないだろうと思う。
セックスワーカーがこんな客に出会って仕事を辞めるって「お姫さまが池に鞠を落としたらしゃべるカエルが鞠を拾ってきてくれて、そのカエルが実は王子様だった」ってぐらいのおとぎ話ですね?
「マイ・ファニー・レディ」は、この出来事をきっかけにイジーが女優になるまでの偶然の連鎖と勘違いが起こすドタバタを描いたコメディで、アーノルドの妻やイジーに恋する脚本家やその恋人のカウンセラーやイジーのストーカーの高齢客やらが入り混じって、最後には主人公のイジーがちゃんと幸せになるハッピーエンド映画だ。
イジーがずっと魅力的で目が離せなくて、そのイジーが不幸な少女が王子様と結婚して幸福になるようなありきたりなハッピーエンドじゃないイジーにぴったりな幸福になるところも素敵なのだ。
この映画を見て名セリフを引用して暗唱することの面白さと力を感じた。
印象的な引用は2つで、1つは物語がドタバタするきっかけになる「リスを胡桃に!」だ。
アーノルドが3万ドルを渡したセックスワーカーはイジーだけではなく、この映画の中で昔アーノルドに3万ドルをもらって仕事を辞めたセックスワーカーは何人も出てくる。
皆新しい仕事で成功していて美しく生き生きとしており、皆アーノルドに感謝している。
お金を渡す時にアーノルドはいつも「人に決めさせるな。”場所”は自分で決めるものだ。楽しければそこが君の場所。何が幸せかは自分で決めるものだ。ハイドパークで人はリスに胡桃をやる。でもリスを胡桃にやって幸せを感じてもいい」という古い映画の引用のセリフを言うので、偶然彼女らに会うと「私を覚えてる?リスを胡桃に!よ」と言われている。
もう1つはイジーがインタビュアーに落ち込んで独りぼっちで寂しい時に鏡を見ながらオードリーのセリフを言うのだと話す場面だ。
「私はピンクを信じる。カロリー消費には笑いが一番と信じる。キスをたくさんすべきだと信じる。強くあるべきだと信じる。何ひとつうまくいかない時もね。幸せな女の子が一番可愛いと信じる。明日には明日の風が吹くと信じる。そして奇跡を信じる。奇跡を信じているの。それが効くの。毎回それで立ち直れる」
いい場面だった。
今後私は元セックスワーカーが新しい仕事を探す時必ず「リスを胡桃に!」と励ますだろうし、通販番組しかやってない時間に孤独を感じたらオードリーペップバーンのことを思い出すと思う。
そのことは目の前のややこしくごちゃごちゃしたものに惑わされずに本質にたどり着く早道を照らしてくれるように思う。
「マイ・ファニー・レディ」にも引用暗唱できそうなセリフがある。
イジーがセックスワークについて説明する
「魔法を失った気の毒なお客さん達を生き返らせるのが私の仕事。自信を与えてあげるの。世界一の大物みたいに1時間タップリ大切に扱う」
というセリフと、
イジーと脚本家のデートの時の会話の
「太古の時代娼婦は神聖な職業だった。精神と性が切り離される前の時代。正しい時代だ」
「あなたってロマンチスト」
というセリフと、
イジーとカウンセラーの
「コールガール?最低ね。よく平気でそんな仕事やれるわね。何かいいことある?」
「イイって叫ぶことはしょっちゅうあるけど(笑)」
というセリフ。
どれも「セックスワークとは?」を語りたがる素人さんたちを煙に巻くのに多分便利。
ついでに「マイ・ファニー・レディー」をお勧めすればくだらない話を短めに終わらせることができるかもしれない。
イジーのブロードウェイデビューの舞台「ギリシャ的な夜」も観たいなと思う。
仕事で妊娠してしまったコールガールが「すごく言いづらい。あなたは何でも話せる大切な友だちよ。私を嫌いにならないで。私コールガールだったの。っていうか今もそう」と女友達に話す場面があり、ラストは前向きなハッピーエンドのようだった。
観たいよね?
最近「セックスワーカーと親」「セックスワークとカムアウト」について考えさせられる出来事があり、そのあたりの私の頭の中のモヤモヤはこの映画を見るとますます混乱してくる(イジーの親が娘とやった男はぶん殴る!と言って暴れたりするからね)んだけど、そのあたりのことをうまく整理できそうな映画を見つけて次回はカムアウト問題について書いてみたい。
イジーのインタビュアーへのカムアウトはとても魅力的で、それはモヤモヤのままの心でも心の在りどころをふわっとさせてくれたように思えた。
最後に美容効果について書きたい。
「マイ・ファニー・レディ」に登場するセックスワーカーたちは現役も元も皆とても綺麗で生き生きとしているので、観ているこっちもなんか綺麗になってくるような気がする。
セックスワーカーが観るとロールモデルが一気に増えて美容効果が期待できる、のではないだろうか?
今ツタヤの新作コーナーにあるから暇な時間があったら美容効果も期待して「マイ・ファニー・ガール」を観るといいよ。
「マイ・ファニー・レディ」公式HP→http://www.myfunnylady.ayapro.ne.jp
「ティファニーで朝食を」→http://movie.walkerplus.com/mv6017/
「ティファニーで朝食を」は映画より原作の方が断然お勧めです→http://www.amazon.co.jp/dp/410209508X