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写真はイメージです |
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「そういえば訊きたかったんだけどさ」
ホテルの部屋に入るなり、お客が言い出す。何だろう。イヤな予感しかしないけど、ニッコリ笑って「なあに」と首をかしげてみせる。
「前の店って正式に辞めてないの?」
「やだ、まさか。もうずいぶん前の話ですよ」
「まだ写真あるよ?」
「ええっ」
辞めたはずの店が、写真を外してくれない。意外とよくある話。
多くの店は即日、遅くとも1週間以内に写真もプロフィールを消してくれる。けれど、そうしてくれない店もある。
ネットから画像やプロフィールを消してくれない。
店内用アルバムから写真を外してくれない。
消すように頼んでも誤魔化される。
私みたいに移籍ならまだマシだ。たぶん。
でも、風俗を上がった嬢からしたら本当に怖いこと。
しかも、そんな奴らが本名も本籍地も知ってるんだから。
イヤだけど、今夜また連絡しなくちゃ。ああうんざり。
気分を変えるため、明るめの声を出して「お風呂入れますね」と立ち上がる。
「それにしても」とお客がまた喋り始める。
「今度の写真、いいね。すごくいい」
よかった。時間も手間もお金もかけて撮ってもらったプロフィール写真だ。そうでなくちゃ困る。
店によって方針は違うだろうけど、私の所属店では半年に一度くらいのペースでプロフィール写真の更新が勧められている。撮影代は無料とはいえヘアメイクや衣装や下着にかかるお金は自腹だから、けっこうな金額が吹っ飛ぶ。でも、お客の目を引く――ネットが鳴る――写真があれば、フリー客が集まる。
そこからリピーターを掴めるかどうかは私次第。
「会ってみたい」そう思わせる写真。綺麗で色っぽいのは当然、でも露骨すぎず想像力をかきたてる程度の色気がいい。
「太腿の奥が見えそうで見えないのがたまらないんだよ」
そう、そう思って欲しいんですよ。
「ウフフ。もっと奥が見たくて来ちゃった?」
「そうなんだよ。でも実物のほうがいいよ」
ほんとによかった。常連というほどでもないリピーターにそう言ってもらえると安心する。常連客の意見も大事だけど、フリーを呼ぶための参考にはならなかったりする。
風俗嬢のプロフィール写真は、レストランのメニュー写真みたいなもの。
なんとなくイメージを掴みつつ、
「なんか美味しそう」
「ちょっと味わってみたい」
そう思ってほしい。
でも、あくまでも<写真はイメージです>なわけだから、過度の期待をされても困るし、させたら接客が面倒。実際の本人のイメージやプレイスタイルと違いすぎない程度に「盛る」加減が難しい。
とはいっても、画像の修正具合や年齢のサバ読みはお店が勝手に決めるわけで、私にはどうにもできないんだけど……。同僚の嬢とのバランスもある。例えば、5歳サバ読みが基本の店で1人だけ実年齢でやっていくのは、自分も同僚嬢もお互いにキツい。
そんなことを考えながら、衣装や下着やポーズに気を配って(もちろん軽くダイエットもして)プロフィール写真撮影の日を迎えるんです。
仕事がウマくいくように。
ネットが鳴る(ネット指名が入る)ように。
アルバム指名が入るように。
これは自分に都合のよい願い。
と、同時に。
会ったことのないお客がワクワクするように。
会ったことのあるお客が「また遊びたい」と思い出してくれるように。
これは自分だけに都合のよい願いじゃない。
もちろん、店に来てくれた人を楽しませるのが仕事だけれど。
来る前からちょっとドキドキして欲しい。楽しんで欲しい。
前戯の前戯というか、オードブルの前のアミューズとして。
「今日ね、あの写真と同じの身につけてきたの」
「嬉しいなあ。アレはエッチだよね」
「そうでしょ?」
「そうそう、なんかムラムラして大変だったよ」
そう、セクシーすぎる写真にしたらマズい理由。
ネットで写真を見た人たちがオカズにする可能性が高いからだ。
1人でサッパリされちゃ困る。お店に来てくれなくちゃ商売にならない。だから、
「なんだかエロくて気になる」
「その奥が見たい」
「実物を眺めまわしたい」
そのくらいでいい。
お店のウェブサイトや風俗ポータルサイトに掲載された写真、取材で撮影された写真や動画、いったい何人の人が見たんだろう。そのうち何人が「会いたい」と思ったんだろう。
何人がオカズにして、何人が会いに来てくれたんだろう。想像もつかない。
こういう仕事をしている以上、源氏名の自分をオカズにされてもそんなにイヤじゃない。
けれど、わざわざ「面と向かって」言う、それは嬉しくない。
「ウフ、ありがとう」と口では言うけれど。
ほんと、何事にしろ「わざわざ」言ってくる輩にロクなのはいないのだ。
「脳に行くべき血液まで股間に行ってる」状態の風俗客は多いわけだけど、それにしても。
そんなことを言われた相手がイヤな気持ちになるんじゃないかとか、そういう想像力を使えないようながお客だと困るなあと思うし、けっきょくお互い楽しくない。
一回戦終了後、お客が言う。
「あの写真さ、すごく気に入ったんだよ。だから」
んんん。このタイミングで何だろう。
「なあに?」軽く体をくねらせながら言ってみる。
「パソコンに保存しちゃったよ」あら可愛い。そんなのお好きにどうぞ。
「奥さんに見られたら大変じゃない?」
「だから秘密のフォルダにいれておいたよ」
「ナイショに大事にしまっておいてね」
妻子に見られてトラブルになるのを心配してるような顔をする。いい人だからリピートして欲しいし、面倒なことになって欲しくないのも本音。でも、画像が流出して私の身元がバレたりする方がよっぽど困る。世の中は狭いし、私だっていつか風俗を上がるんだから。
でも、そのときまでは。
密室で二人きりで過ごす、その相手には優しくするよう頑張ろう。時間を守る、ルールを守る、相手の嫌がること、嫌がりそうなことはしない言わない。私も気をつける、あなたも気をつける。どうせなら、少しでも楽しく過ごしたいじゃないですか。